相合傘

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それから私達は他のクラスに行ってみたりして休憩時間を過ごした。 受付に戻ると、郁人の代わりに永草くんが座っていた。 知らない女の子達に声をかけられていて対応している。 女の子達は永草くんに頭を下げると嬉しそうに去って行った。 「永草くん」 「あ、おかえり、叶絵ちゃん」 「今の子、誰?」 「俺のバンドのファンなんだって」 さっき麻里奈も言ってたな。 永草くんはよくファンの子に話しかけられてるって。 「……そうなんだ」 「嬉しいよね、こうやってファンになってくれるって」 「たくさんの人が永草くんの作った曲を聴いてるって事だもんね」 「そう言われたら恥ずかしいけど、声をかけてもらえるのは嬉しいよ」 「……1個聞いていい?」 「何?」 「永草くん、麻里奈に『ファンです』って言われたら嬉しい?」 そう聞くと永草くんはキョトンとしてから首を傾げた。 「ファン、か……。なんかそれは、嫌かな」 「え?」 「自分でも何でか分からないけど、とにかく麻里奈ちゃんにファンって言われるのヤダなって思って」 永草くんはフワッと微笑んで私を見た。 麻里奈の頑張りはちゃんと永草くんに届いている。 私は小さく息をついて「そう」と言った。 私も頑張ったら櫂に届くのだろうか。 たとえ届いたとしても、私は櫂を不幸にするだけじゃないの? 「そういえば叶絵ちゃん、一組の眠り王子と幼なじみなんだよね?」 「眠り王子?」 「ほら、あの黒髪の」 「櫂の事?」 「そうそう。なんか凄い人気みたいだね」 「え?」 「ほら、コレ。今日この学校に来てる人達からSNSで騒がれてるよ」 永草くんにスマホの画面を見せてもらうと、そこには大量の櫂の写真。 確かにめっちゃ執事服似合ってたし……。 「さっき一組の友達から聞いたんだけど、一組の売り上げハンパない事になってるんだって」 「そうなんだ……」 「叶絵ちゃん」 「何?」 「幼馴染の皆をここへ連れてきた事、まだ後悔してる?」 そう聞かれて固まる。 どうして永草くんがそれを知ってるの? 目を見開いて永草くんを見つめると永草くんは綺麗に微笑んだ。 「ごめんね、郁人くんから聞いたんだ。『叶絵は僕達を巻き込んだって思ってる』って」 「!!」 「郁人くんからその話を聞いた時、ちょっと思ったんだ」 「何を……?」 「どうして『巻き込んだ』事になるんだろうって。俺が見る限り郁人くんはこの学校に来て後悔してるようには見えないし、むしろとても楽しそうだから」 そう言われて俯いてしまう。 郁人はきっと後悔してない。 ここへ来た事に後悔なんて絶対。 でも、いつも考えてしまう。 ここへ来なければ郁人はもっといい人生を歩めたんじゃないのかなって。 .
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