相合傘

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「この学校は確かに中学で落ちこぼれだった人が多いのかもしれない。でも、望んでここへ来た人だっているでしょ?」 「え……」 「ほら、俺も、叶絵ちゃんも。『落ちこぼれ』ってレッテルを貼り付けて檻の中に閉じ込めた大人達はきっと何も楽しい事が無かったんだろうね。成績が良いから楽しいわけ?先生の言う事を聞く子が華々しい人生歩めるの? 俺は違うと思う。だってこの学校の人達は皆楽しそうだよ。何にも縛られず、自由に、楽しく過ごして伸び伸びしてる。 そういう雰囲気だから、『落ちこぼれ』って言われて集められた人達がいる学校でもこんなに沢山の人達が集まるんだろうなって」 永草くんは歩いている人達を見ながら笑った。 私も周りの人に目を移す。 楽しそうに笑って、窮屈そうじゃなくて……。 先生も、誰も私達を見下したりしない。 「郁人くんが言ってたんだ。『成績優秀でいい子の郁人をやるのは疲れた』って」 「え……?」 「周りからの期待に応え続けるっていうのも大変で疲れるんだよ。だから郁人くんを叶絵ちゃんは解放してあげたのかもね」 「解放……」 「今の叶絵ちゃんから見て、今の郁人くんは窮屈で可哀想な人生を歩んでるように見える?」 首を左右に振る。 だって、ここへ来て郁人はとても楽しそうだ。 莉乃も、櫂も、誰もつまらなそうじゃない。 だって櫂が学校行事に参加してるなんて驚きだし、郁人がクラスメイトからいじられてるなんて見た事ない。 莉乃だって、女の子から妬まれたりしてない。 三人とも、中学よりずっと過ごしやすそうにしてる。 「叶絵ちゃんは色々気にしすぎなのかもね。もっと幼馴染の皆と向き合ってみたらどうかな?逃げないで」 私は皆を不幸にしたくない。 私は親戚にとって不幸を呼ぶ存在で、周りに不愉快な思いをさせるだけで。 そうやって言われて生きてきた。 でも、ここに親戚は居ない。 私を暗闇に閉じ込めた親戚達はここに居ないんだ。 だったら好きにしてもいいのかな? 「永草くん」 「ん?」 「ありがとう」 「……ううん。叶絵ちゃんの力になれるなら嬉しいよ」 きっと櫂を好きでもいい。 諦めたくない、道宮さんに櫂を取られたくない。 不幸にする事しか出来なくても、私は櫂が好きなんだから仕方ない。 「永草くん。梅雨祭りのジンクス知ってる?」 「女の子が騒いでる相合傘がどうとかいうやつ?」 「うん。私、頑張って櫂の事誘ってみる」 「え?」 「女の子はそういうの、大好きだからね」 そう言って笑うと永草くんも笑った。 .
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