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マンションへ帰り、櫂と莉乃に郁人の事を報告する。
案の定二人は固まっていた。
「郁人って、バイト出来んの?」
「ちょっと櫂、僕だって出来るよ。失礼な事言わないで」
「いや、郁人が基本なんでも出来るのは知ってるけど、お前ってすぐ女子に囲まれるじゃん。それじゃ仕事にならなくない?」
「それは櫂もでしょ?櫂が出来るなら僕だって大丈夫」
櫂はこれ以上言っても無駄と判断したのか深くため息をついた。
「えー!?みんなバイト始めたのー!?」
「莉乃は別に無理してバイトしなくて大丈夫だからね」
「叶絵の優しさが辛い……っ」
いや、莉乃がバイトとか絶対無理だと思っているからだ。
しっかりしてるようで抜けてるし、バイト先で迷惑をかける想像しか出来ない。
私の考えは他の二人も同じみたいで、莉乃を憐れむように見ていた。
ご飯も食べ終わり、櫂と皿洗いをする。
距離が近くてドキドキするな……。
相変わらず櫂はいい匂いで傍に居るだけで好きが積もる。
何も会話してないのに気持ちが通じてるみたいで心地いい。
「叶絵」
不意に名前を呼ばれて櫂を見る。
櫂は私を見ずにお皿を洗い続けていた。
「無理してない?」
そう聞かれて私は驚いた。
別に何も無理はしてない。
梅雨祭りから私は3人を避けてはいない。
私が避けたところで3人が私に近寄らなくなるなんて絶対にないし、そんな事しても無駄だって分かった。
私は別に3人を縛り付けたいわけじゃない。
私のせいで不幸になるかもしれないのに、それでも3人は私と一緒に居る事を選んでくれたのだ。
「無理してないけど……。どうして?」
「突然バイトするって言うし、俺達の事前より避けなくなっただろ。俺は避けられなくなって嬉しいけど、叶絵が無理してるんじゃないかって思って」
「ああ……。避けてても皆は私と一緒にいてくれようとするでしょ?避けるにしても体力使うからやめただけ。バイトは前からしようと思ってたから」
「ふーん」
櫂は全てのお皿を洗うと私を見た。
「無理してないならいい」
櫂は私の頭をポンポンと撫でると部屋に行った。
どうしてそんなに人を好きにさせるんだろう。
……道宮さんにもきっと優しいんだろうな。
櫂は道宮さんをどう思ってるんだろう。
あれだけ可愛くて人気者で明るい女の子、好きにならない方がおかしいのかな。
そう考えると少しだけ暗くなる。
私は頭を左右に振って考えるのをやめた。
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