夏休み

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次の日、私は郁人と一緒にバイト先に向かった。 中に入ると郁人は瞬く間に皆と仲良くなった。 元々郁人が人を惹き付ける人物だし、ここの人達もいい人達だから。 夏休みということもありお客さんが沢山来る。 呪文のような名前のコーヒーを聞き、注文を受け付ける。 その繰り返しだけど、何故だか楽しかった。 桜(そう呼んでと言われた)が郁人に仕事を教えているのを見て、桜は郁人が好きなんだろうなと分かった。 その目は何度も見てきたものだから。 桜はいい人だし応援してあげたいけど、莉乃は大事な家族だ。 莉乃と郁人がくっつけばいいなって考えてしまうのは身内びいきだろうか。 郁人も莉乃もお互い好き同士なのにどうして付き合わないんだろう。 鈍感同士だからな……。 そう考えながら私は次のお客さんの対応をした。 バイトの勤務時間も終わり、私は郁人と一緒に帰る。 「ちょっと寄り道して帰らない?」 郁人の方からそう言ってきた。 驚いて固まると郁人はクスッと笑った。 「実は莉乃に連絡してるんだ。皆で櫂のバイト先行かないかなって思って」 「なんで……」 「だって叶絵、気になってるんでしょ?櫂と道宮さんの事」 そう言われてビクッとする。 本当に郁人は私の事をお見通しだな。 私は諦めたように息をついた。 莉乃と合流して私達は櫂のバイト先に向かった。 櫂はカフェのバイトを始めた。 そのカフェに向かうと人がたくさんいた。 流石夏休み。 店の外から櫂が見えてドキッとした。 カフェの制服、凄く似合ってる。 カッコいい。 営業スマイルだとしても櫂が笑っている。 その笑顔に多くの女の子が魅了されている。 あの子達、いいな。 毎日櫂と一緒にいるのに、私って贅沢だな。 「あ、櫂だ!」 莉乃が櫂を見て飛び跳ねる。 郁人はニコニコしていた。 「ちょっと並ぶみたいだけど、どうする?待つ?」 「ここまで来たんだから待つよ!叶絵も櫂の制服姿、もっと近くで見たいでしょ?」 なんて事聞くんだ、この姉は。 そりゃ見たいけど、多分近くで見たら気絶しそう。 櫂にドキドキで殺されてしまうんじゃないか。 私達は外でしばらく待つことにした。 楽しそうに会話する郁人と莉乃。 周りの人が二人を見ている事は多分気づいてない。 本当に人の目を惹き付けるな。 ・
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