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「一翔くんのおばさんが管理してるマンションに住まわせてもらいなさい」
「一翔のおばさんのマンション?」
一翔は私の従兄弟。
両親はマンションの大家をしていて、結構なお金持ちだ。
おっとりしているのにお金の勘定はとても速い。
お母さんのお姉さんだ。
「家賃は必要ないって。丁度部屋も空いているから自由に使っていいって言ってたから」
「でも悪い……」
「一人で頑張らせないって言ったでしょ。貴女はまだ学生で、それも高校生なの。アルバイトだけじゃ生活できない。本当なら高校生で一人暮らしなんて危ないし不可能なのよ。こうやっておばさんがマンションの大家だったから出来るようなものなの」
「そうだけど……」
「反対したいけど、私にその資格はない。叶絵が一人で暮らしたいって言うなら賛成するしかないの。でもこれだけは言わせて」
お母さんが私の手を握る。
「何があっても私は貴女の母親だから」
「!!」
「なんでもいいから相談してきていいのよ。困ったら遠慮なく頼りなさい。食費も学費もちゃんと払ってあげる。貴女は何も心配しなくていいからね」
「お母さん……」
「それから……叶絵が良かったらでいいから、家に帰って来なさい。お母さんの事、マンションに呼んで頂戴」
「うん……」
「大好きよ、叶絵」
お母さんの言葉に泣きそうになる。
本当は離れたくないよ。
ずっとお母さんと一緒に暮らしたい。
それをアイツは許さないでしょ?
私とお母さんの間に入ってきて、全部壊して。
大嫌い。
莉乃にバレないように荷物を整理していく。
出来るだけ自然に。
お母さんにも言っているのだ。
絶対に莉乃には言わないでって。
それから、私がこの家を出て莉乃も一緒に暮らしたいって言っても絶対に反対してって。
これ以上莉乃を私の道に引きずり込みたくないからって。
そして卒業式を終え、入試の日がやってきた。
電車に乗っても周りの視線が痛い。
3人がこうして注目を集めるのは今に始まった事ではない。
可愛い莉乃とイケメン二人。
目の保養にいいんだろう。
「ちゃんとテスト出来るかな」
「莉乃なら大丈夫だから」
「どうして叶絵そんな余裕なの?」
「だって偏差値低いし。寝てても受かる」
「そうなの!?」
莉乃の言葉に郁人が笑う。
「流石に寝てたら落ちるよ。大丈夫、いつも通りにやれば受かるから。いつも莉乃、上位にいたでしょ?」
「郁人……」
このフワフワした世界、何?
ため息をつくと櫂が私の肩に寄りかかって寝ていた。
本当にこのイケメン。
自分が何とも思ってないからって簡単にこんな事するなんて。
こうやって諦められなくして、私をどうしたいんだろう。
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