夏休み

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しばらく待つと私達を呼ぶお店の人。 中に通されて席に座るとメニューが渡された。 「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりの頃に伺いますね」 そう言って可愛い女の子は歩いて行った。 「櫂ってば、私達に気づいてないね」 「櫂は仕事中だし、僕らが来るとは思ってないから仕方ないよ」 店内を見渡すといろんな人がいろんな事をしていた。 ウチの店でも同じような光景を見たな。 仕事をしてる人、友達同士で会話してる人、カップルで来てる人……。 人間観察をしていると道宮さんと目が合った。 あ……。 道宮さんは表情を明るくすると私達の方にやって来た。 「わー!いらっしゃい!来てくれたんだ!」 「あ、海梨ちゃん!」 「注文、何にする?オススメはフルーツサンドだよ」 「どれも美味しそうで迷うー……。叶絵、何にする?」 「……アイスコーヒー」 「ブレないなー。もっと冒険していろんなものに興味もとうよ」 「私は別にいいの。美味しいって分かってるものだけで充分」 そう言うと莉乃は不満気な顔をした。 「僕はカフェモカにしようかな。莉乃はフルーツサンド頼んだら?オススメしてくれてるんだし」 「うーん、じゃあそうする!フルーツサンドとココアがいい!」 「かしこまりました。すぐ持ってくるね」 道宮さんはニコッと笑うと歩いて行った。 別に道宮さんは何も悪くない。 それなのに私、態度悪いな。 自己嫌悪に陥ってしまう。 道宮さんは私に対しても同じように優しくしてくれるのに、勝手に嫉妬して嫌な態度とって。 子供と同じだ。 そんな事を考えて俯くと肩に手を置かれた。 「何してんだよ」 その声に顔を上げると、後ろに立っているのは櫂だった。 「ようやく気付いたー!櫂おそーい!」 「うるせーよ、莉乃。冷やかしに来てんじゃねーぞ」 「冷やかしじゃないもん。海梨ちゃんから『来ていい』って許可もらってるし、別に櫂に会いに来たわけじゃないし」 「ああ、そうですか」 櫂は面倒そうにため息をつくと私を見た。 「叶絵、なんか体調悪い?」 「え?」 「俯いてたし、なんか不安そうな顔してるから」 どうして櫂には分かってしまうんだろう。 私はグッと唇を噛みしめて首を左右に振った。 「別に平気。そう見えたなら心配かけてごめん」 「バイト終わりだろ?疲れてんのに連れ出されたの?」 「郁人と莉乃は櫂のバイト先行きたそうだったし。私も櫂のバイトしてる姿見たかったし」 「見てどうするんだよ。別にいつもと変わらないだろ」 「……変わるよ」 そう言って櫂を見ると櫂が息をついた。 「もうすぐ俺、バイトあがりだから。一緒に帰る?」 そう聞かれて自然と頷いてしまう。 ハッとすると櫂が笑った。 「素直で可愛い」 そう言うと櫂は仕事に戻った。 ・
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