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「叶絵ちゃん、紹介するね!」
突然桜に腕を引かれてイケメンと美人の前に立たされる。
桜は美人を手でさした。
「ウチのドラムの真音!私と同じ学校で、彼氏は年上」
「彼氏の事は別に言わなくていいから」
そう言って困ったように笑うと真音ちゃんは私を見た。
「初めまして、大倉真音です。ドラム担当してます。凛と同じ学校で友達なんだよね?私とも仲良くしてくれたら嬉しい」
「茅ヶ崎叶絵です。こちらこそよろしく」
「お次はこちら!ウチのベース担当の泉那!男子校に通ってるんだ」
「その情報いる……?初めまして、茅ヶ崎叶絵です。よろしく」
私がそう言うと泉那くんは固まったまま動かない。
あれ?
私何か変な事言った?
そう思っていると桜が泉那くんの腕をつついた。
ハッとして口を開いてくれる泉那くん。
「は、初めまして!奥野泉那です……っ」
「泉那ー?なんで顔紅いの?」
「え!?」
泉那くんが両手で顔を触る。
桜は不思議そうにしていた。
そんな泉那くんを見て永草くんと真音ちゃんは何かを悟ったように微笑んだ。
「そういえば叶絵ちゃん、最近は幼馴染と仲良くできてる?」
「あー……なんか永草くんには迷惑かけてごめんね」
「別に迷惑じゃないよ。叶絵ちゃんにだって何か理由があるんだろうし、逃げたくなったら俺は助けるよ。でも夏休みくらい、頑張らなくてもいいんじゃないかなって思って」
そう言うと永草くんは微笑んだ。
「今度、郁人達と遊びに行くんだ」
「それは良かったね」
「ありがとう、永草くん。永草くんのおかげで少し吹っ切れた」
「力になれたなら俺も嬉しい」
私達の会話に首を傾げる桜。
私は桜の肩を叩いた。
真音ちゃんと泉那くんとも連絡先を交換してマンションへ帰る。
リビングに行くと莉乃が出迎えてくれた。
「おかえり!」
「あれ?今日は莉乃だけ?」
「うん。郁人も櫂もバイトだよ。19時くらいに帰ってくるって」
「そっか」
カバンを置いてテーブルを見ると莉乃が作ったであろうご飯が並んでいた。
少しは上達したようだけど、やっぱり何を作ったのか理解できない。
でもせっかく莉乃が作ったご飯だ。
「莉乃、私の分のご飯ある?」
「え!?叶絵、一緒に食べてくれるの!?」
「莉乃が嫌ならいいけど……」
「嫌じゃない!ありがとう!」
莉乃が嬉しそうにご飯を用意してくれる。
莉乃と一緒に席についてご飯を食べた。
おそらくこれは肉じゃがだろう。
丸ごとに近いジャガイモはまだちょっと硬かった。
そして細切れになりすぎている牛肉たち。
……斬新。
「そうだ、叶絵。お母さんからラインきてたでしょ?」
「あー……」
「お母さんの実家に行こうって。どうして返さないの?」
だって、おばあちゃんもおじいちゃんも私を嫌っているから。
その上、アイツも一緒でしょ?
地獄だ、そんなの。
あの場所は、私にとって地獄以外のなにものでもない。
閉じ込められた蔵だって、血を吐いた地下室だって、あそこにはある。
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