夏休み

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「まあ、俺はいつも通り叶絵を溺愛するだけだし、他人に言いふらすようなものでもないからいいけど」 「ありがとう……」 「でも、二人の時は恋人同士がやるような事してもいい?」 「!?」 「叶絵が慣れるまでいつまでも待つけど、我慢出来なくなったら周りに言っちゃうから」 櫂は意地悪く笑うと私の手を握った。 「ほら、もうすぐ映画の時間。合流しないと」 櫂はいつも優しかった。 それは櫂の性格で、私だけじゃないんだってそう思って。 だけど、櫂は私の事を好きでいてくれた。 なんて嬉しいんだろう。 嬉しくて泣いてしまいそうだけど我慢して、私は櫂と一緒に映画館に向かった。 映画館には郁人と莉乃がすでに居て、私と櫂を出迎えてくれた。 手を繋いでいる事に焦ったけど二人は何も言ってこなかった。 これって、普段から櫂にこんな事されてるって事だよね? どうして今まで気が付かなかったんだろう……。 「二人とも何してたの?」 「叶絵と散歩してた」 「老夫婦じゃん」 「莉乃ほどじゃねーよ」 「誰がおばあちゃんよ!!」 莉乃がむくれながら櫂の腕を叩く。 そんな莉乃を郁人が困ったように笑いながらなだめた。 「ところで何の映画見るわけ?」 「莉乃が見たがってたやつだよ」 「あー……あの恋愛映画か」 郁人が指さした映画のポスターを見て嫌そうな顔をする櫂。 あ、でも、私も見たかったやつだ。 櫂、ああいうの嫌いだもんな。 「……私は、見たかったから嬉しい」 そう言うと莉乃が私に抱き着いた。 「だよね!?ほら、櫂!叶絵だって見たがってるし、私のセレクトは間違ってない!恋愛映画苦手なら櫂だけ入らなきゃ良いじゃん!」 「苦手だよ。でも叶絵が行くなら俺も行く」 「でたー。櫂の叶絵基準。どんだけ叶絵好きなわけ?」 莉乃の言葉にドキッとする。 だけど櫂は顔色一つ変えずにため息をついた。 「お前だって叶絵好きだろ。ていうか、中入らなくていいの?」 「あ!ポップコーン買わないと!」 莉乃の目が輝く。 それから郁人の腕を引いて売店に向かって行った。 「櫂、ごめん」 「なんで謝んの?」 「映画も苦手なやつなのに、付き合わせて……。それに、付き合ってるのバレないようにしてくれてるし……」 「叶絵が望むから俺は叶えるだけ。苦手なものでも、好きな奴が見たがってるなら話は別じゃない?それに俺はどうやら付き合ってない時から叶絵を彼女みたいに扱ってたようだから、全然不思議がられてない。だから思う存分叶絵を可愛がれる。だから何もストレス無いけど」 ・
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