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「叶絵、波音ちゃんから『一緒に花火大会行かないか』って誘われてるけど行かない?」
郁人がそう言ってきたので、私は夏休みの宿題から顔をあげて郁人を見た。
今日は郁人と私だけがマンションに居る。
櫂と莉乃はバイトだ。
クーラーをつけてリビングで二人で宿題をしている最中、郁人宛に波音からメッセージが届いたらしい。
なんでアイツ、私に直接送ってこないの?
まあ、断られるとでも思っているんだろう。
人混みとか嫌いだし、別に行きたいわけじゃないけど……。
高校生になって初めての友達からのお誘い。
波音達と居るのは楽しいから。
「行く」
「分かった。波音ちゃんに返事しとくね」
「花火大会っていつ?」
「来週だって。凛くんと朔夜くんと萌音ちゃんと麻里奈ちゃんも一緒だよ」
「だと思った」
そう言って宿題に再び向き合う。
夏祭り、本当は櫂と行ってみたかったけど……。
そんな事して付き合ってる事がバレたら怖い。
冷やかされたり、私に櫂は不相応だって言われそうで……。
「そういえば、もうすぐ叶絵のお父さんの命日じゃない?」
「うん」
「……大丈夫?」
心配そうにそう言って私を見てくる郁人。
私は頷いた。
「大丈夫。色々思い出したりしてしんどいけど、別に苦じゃないよ」
「それならいいんだけど……」
「心配しないで。もう分かってるから。小さい時は信じられなかったけど、流石にもう私も『お父さんはいない』って分かってる。今更鬱になったりしないから」
郁人は困ったように微笑むと宿題に目を移した。
お父さんの墓参りに行かないとな……。
頭の中に流れるお父さんの声。
嬉しそうに私の名前を呼ぶその声は、もう頭の中でしか聞けないんだ。
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