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今日は、お父さんの命日。
朝起きて、ご飯を食べて、いつものように皆と話して。
郁人と莉乃が今日はバイトなので見送った。
櫂と二人になると櫂がカレンダーを見て口を開いた。
「今日、行くの?」
そう聞かれて私は頷いた。
「毎年行ってるし、話したいことも沢山あるから」
そう言うと櫂が私の手を握った。
「俺も一緒に行く」
「え?」
「久しぶりにおじさんに会いたいし」
櫂に優しく微笑まれて胸が温かくなる。
私はお礼を言って用意をした。
櫂と一緒に家を出て、花屋さんでお花を買った。
そして電車に揺られてたどり着いた場所は、お父さんが寝ている場所。
夏休みだからなのか、もうすぐお盆が近いからなのか分からないけど、人は結構来ていた。
墓石の前に到着して、墓石の掃除をする。
お母さんが来たんだろうか。
結構綺麗だ。
「櫂、一緒に来てくれてありがとう」
「お礼言うことじゃないだろ。俺もおじさんの事知ってるし、小さい時は遊んでもらったこともあるし。これくらいさせて」
「うん」
掃除もだいたい終わり、私と櫂は線香をつけて手を合わせた。
今日はちゃんとお父さんに伝えないといけない事があるから。
「…お父さん、私ずっと逃げてばかりでごめんなさい。お父さんが死んで、一人になっちゃった気がして、その寂しさがお母さんを傷つける形になっちゃった。馬鹿でごめんなさい」
櫂の手が私の肩を優しく抱いてくれる。
それだけでとても安心した。
「私、もう逃げないって決めたの。今までずっと親戚に言われてきた言葉を気にして周りの人を避けてきたけど、私が一人になるのを許そうとしない人達がいることに気づいたから。逃げないで戦うって、そう決めたんだ。
お父さん。私は、櫂も莉乃も郁人も大事にしてる。これから先もずっと、何があっても私は3人を助けるし守っていく。お父さんと約束したからって言うのもあるんだけど、それ以上に3人が私にとって大事な人達だから。
ありがとう、お父さん。今までずっとお父さんの事引きずっててごめんね。これから先、どんなことがあろうとも、私は絶対に逃げたりしないから。私の事ちゃんと見てて」
私は櫂の手を握った。
それから立ち上がって、私と櫂は墓石を後にした。
手を繋いだまま何も話さずに歩いていると櫂が口を開いた。
「俺、叶絵の頑張ってるとこ好きだよ」
「な、何?突然……」
「頑張り屋で、一人で傷ついて、周りを巻き込むのを嫌う叶絵を、俺はどうしても放っておけないから。だから叶絵が『戦う』って決めたなら俺も一緒にやるから」
「櫂……」
「家の事とか、俺にはどうしようもない事だってあるだろうけど、叶絵が安心出来る場所くらいにはなれるかなって思うから。莉乃から聞いたけど、親戚の家に行くんだろ?」
「うん」
「どんな事があっても、俺達は絶対に叶絵を一人にはしない。莉乃が『守る』って言ってるんだから俺はそれを信じる。信じて、郁人と待ってるから」
ああ……あったかいな。
櫂の言葉が嬉しくて泣きそうになるけど、私は精一杯の笑顔を櫂に返した。
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