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そんな事ない。
だってあの人はお母さんと再婚する前からずっと私に言い続けてた。
お父さんが亡くなってからずっと……。
お父さんが、亡くなってから……?
私が親戚から『不要だ』と言われたのがあれからだ。
あの日から私はあの人にずっと、何かを言い続けてこられて……。
「叶絵はお父さんが言った事をちゃんとしてる。どうしてお父さんがずっと叶絵にそうやって、嫌われても言い続けてきたか分かる?」
「なんで……」
「この家を、見返すためだよ」
『前を向け』
もしかしてあの言葉は、私を強くさせるための言葉?
「おじさん分かりにくいな」
「お父さんは不器用なの!本当はずっと叶絵を心配してて、お母さんから叶絵が親戚からいじめられてるって聞いて怒ってて。『いつか叶絵が見返せるように』って、ずっと叶絵の事を考えて言ってたの」
「なんで教えてくれなかったの……?」
「だって、お父さんが『言うな』って。言ったら叶絵が責任感じるかもしれないし、頑張りすぎて壊れちゃう可能性だってあったから」
あの人の言葉は全部私のため……?
私は、なんて馬鹿で愚かなのか。
自分だけが不幸だと思い込んで、周りの親切にも気づかないなんて。
『アンタなんか、お父さんじゃない!!』
なんて、酷いことを言ったの?
「叶絵」
一翔が私の顔を見る。
「おじさんの教え、ちゃんと実行して見返してやろうぜ」
そうだ。
謝るのはそのあと。
今は感謝を込めて、この家に思い知らせるのが先決。
私は一翔に頷いた。
一翔と莉乃と一緒に中に入る。
長い廊下を歩いて、突き当りの部屋にお母さんたちは居た。
「いつまであの荷物を抱えておくつもり?」
そう聞こえて足が止まる。
私の事だ……。
「荷物だなんて、そんな言い方しないで!」
「あれは正則さんを殺した悪魔だよ。あんたを不幸にした。放って置いたら今度は莉生さんを殺すかもしれないんだよ?」
「叶絵はそんな子じゃない!正則さんを殺したのは叶絵じゃないし、そんな事言わないで!!」
お母さん……。
お母さんの言葉に泣きそうになる。
私、お母さんの子供で良かったな……。
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