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「お母さん。叶絵ちゃんを悪く言うのはやめて。絵麻の子だよ?それに正則さんが亡くなったのは事故であって叶絵ちゃんは関係ない」
一翔のお母さんもそう言って怒ってくれる。
おばさんも、私を守ろうとしてくれてるんだ。
「あの子は絵麻の子なんかじゃない!あの子は悪魔の子だ!あの子がいるからあんたは不幸になって、一回家族を壊したんだ!!ガサツで、品が無くて、頭が悪くて、女の子らしさの欠片も無い!あんな子がウチの血族?絶対に認めたくない!!」
おばあちゃんの言葉に胸が苦しくなる。
私は家族を壊した事なんてない。
壊したかったけど、壊せなかった。
あの人と一緒のお母さんがあまりにも幸せそうで、あの人の子である莉乃を不幸にしたくなくて。
いくら憎くても壊せなかった。
ギュッと手を握り締めると『お父さん』が口を開いた。
「大変申し訳ございません。再婚相手の僕が言うべきことではないのかもしれませんが、言わせていただきます。叶絵は、今は僕の大事な娘です」
「!!」
「あの子が幸せになれるように僕は嫌われ役を買って出ました。すべてはあの子のために。叶絵が自身の父親を殺した?よくそんな世迷い事を言えますね。父親が亡くなって悲しんで、絶望して、ずっと泣き続けていた小さなあの子を見もせずに、親戚中で寄ってたかって暴力とは……。あの子が家族を壊す?あの子が今度は僕を殺す?そんなわけないでしょう。あんなに優しい子が、悪魔の子なわけない」
限界だった。
我慢していた涙が零れて床に落ちる。
私は一体何を見ていたんだろう。
こんなにもこの人は私の事を考えてくれていたのに。
自分で勝手に否定して、逃げて、傷ついて。
馬鹿だ、最低だ。
「恥ずかしいのはこちらの方です。大事な娘を馬鹿にされて黙ってられる親なんてこの世に存在しない。貴女のような方が親族だということが、僕にとって大きな恥です」
そう言い切ったお父さんの側に、私は歩いて行った。
真っ直ぐ前を向いて、逃げないぞって目で訴えて。
「私は、お父さんから教えてもらった。前を向くことも、女の子らしく振舞うことも、戦うことも全部。言われてる言葉全部が嫌な言葉に聞こえて、人形にされてるみたいで嫌いだった。でも、お父さんの言葉は全部温かかった」
「叶絵……」
「おばあちゃん。私はガサツじゃない。品がある話し方も歩き方も出来るし、女の子らしいから『美人』って言ってもらえる。成績だって、ちゃんと上位に入ってるよ。私の事何も知らないくせに、分かったような口利かないで。二度と私の事を語らないで」
そう言い切ると一翔が笑いだした。
「やばっ。ババア固まってるじゃん」
「こら、一翔!『ババア』じゃないでしょ!?ちゃんと『ババア様』って言いなさいってあれほど!!」
「それ変わってないって、母さん」
「二人とも、やめなさい」
一翔のお父さんが呆れたように息をつく。
それから私を見て優しく微笑んだ。
「成長したね、叶絵ちゃん」
「ありがとうございます」
「強くなったね」
「……はい」
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