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私は深呼吸をしてお父さんと向き合った。
「お父さん」
「っ!」
「ごめんなさい。私は何も知らずにお父さんを傷つけた。私のために嫌われてくれてたのに、私のためを想って色々言ってくれてたのに、私は何も見ようとしなかった。本当にごめんなさい」
「それは……」
「私、もう逃げないよ」
「!!」
「お父さんが教えてくれた。私を強くしてくれた。だから私は前を向ける、頑張れる。私のために怒ってくれてありがとう。私を守ろうとしてくれてありがとう」
『私はもう、親戚とだって戦える』
そう言って私は部屋を出た。
外に出ると気分は晴れやかだった。
ずっと心の中にあったモヤモヤが吹き飛んだみたいに晴れやか。
背伸びをすると莉乃と一翔がやって来た。
「良かったじゃん、叶絵」
「ありがとう、一翔。ずっと信じてくれて」
「最初から何も悪くないじゃん。勝手に悪者にして八つ当たりしてきただせぇ奴らは向こう」
「昔からそれ言うじゃん」
一翔と笑っていると莉乃が私の手を握った。
「お父さんと、仲良く出来そう?」
「……うん。でも、家には帰らない」
「どうして?」
「だって、一人暮らしするって言ったのは私だし。最後まで責任を持つ、そうやってお父さんが教えてくれたから。言い出したことはきちんと守らないと」
「うぅ……」
「莉乃は帰ってもいいんだよ?それに、絶対に帰らないってわけでもないし。わだかまりとかも解けたし、休みの日とかは帰るつもりだから」
「叶絵が帰らないなら私も帰らないもん」
「私は一人でも大丈夫だって。前みたいに避けたりしないから」
「分かってるよ!私が一緒にいたいの!!」
莉乃は頬を膨らませて私の腕をバシバシ叩く。
なんと暴力的な愛情……。
遠くを見つめていると一翔が口を開いた。
「叶絵、昔より表情豊かになった」
「え?」
「ほら、昔はずっと目に生気が無かったし。『私なんていつ死んでもいい』って言ってたじゃん。親戚連中にいじめられても心ここにあらずって感じで、生きてんのか死んでんのか分からないくらいだったのに。今は沢山笑うようになった」
思い当たるのは幼馴染たちと、波音達だった。
私を諦めない人達で溢れているから、私は逃げ場を失った。
彼らに従うしかなかった。
だけどそれを恨んだ事は一度もない。
あの学校を選んでよかったって心の底から思ってる。
適当に選んだのに、幼馴染たちから逃げるために選んだのに、今ではあの選択が正しかったって言えるから不思議。
世の中、何が起きるか分からないな。
「叶絵はもっと笑ってもいいと思うの。そう思わない?一翔くん」
「叶絵が莉乃ちゃんみたいに笑ったら怖いけどな」
「おい一翔、喧嘩売ってんの?」
「いやー、叶絵と莉乃ちゃんは違う人種じゃん」
「ほう……ちょっと私と殴り合いでもしようか」
私と一翔がじゃれているとお母さんとお父さんがやって来た。
「帰るよ」
怒った様子のお母さん。
きっとおばあちゃんと話がつかなかったのだろう。
もういいのに。
この家に未練なんてないし。
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