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久しぶりに帰ってきた家。
私達はリビングのテーブルに座った。
「私、もう二度と実家には帰らない」
あれからずっと怒ってるお母さん。
ずっと私だけが苦しいんだって思い込んでいた。
悲劇のヒロインぶって、馬鹿みたい。
こんなにも私の事を気にかけてくれる人がいたのに。
「もういいよ、お母さん。私がおばあちゃん達に会わなければいいだけの話だし」
「そうじゃないでしょ?叶絵は何も悪くないし、むしろ被害者なのに。謝るどころか更に悪く言うなんて。親戚から追い出すなんて酷い話、よく平気で出来るわ」
「お母さんが怒ってくれるだけで嬉しいから本当にもういいの。ありがとう。別に追い出されても平気だよ。私だって皆の事嫌いだし、これから先会いたくもないし」
そう言って笑うとお父さんが口を開いた。
「叶絵はそれでいいのか?」
「うん。別に逃げてるわけじゃないよ。ただ、戦っても意味ないし何を言っても聞く耳を持たない人にあれこれ言っても無駄な体力を消耗するだけじゃん」
「……お前が決めたならそれでいい」
お父さんは前に置かれたコーヒーを飲んだ。
「……あのね、お父さん。私、よく『美人』って言ってもらえるんだ」
「そうか」
「前はそれが凄く嫌で言ってもらいたくなかったんだけど、今は言われて凄く嬉しい。だって、お父さんが教えてくれた事がちゃんと出来てるって褒められてる事だと思うから。私の事、恥ずかしくないようにしてくれて本当にありがとう」
「恨まれることはあっても、感謝されるとは思ってなかったな」
お父さんは少し困ったように笑う。
私も笑い返した。
「叶絵は学校でも人気なんだよー!美人って校内で言われてるし、何より告白しようとしてる人沢山いるし!」
「え?なにそれ聞いたことないけど」
お父さんが飲んでいたコーヒーを吹き出す。
そして咳き込んだ。
「そりゃ叶絵は鈍感だし、気づかなくて当然だと思うけど。あっという間に彼氏作って、そのまま結婚しちゃうんじゃない?」
「な……っ!?」
「そんなの莉乃もじゃん。モテてるのは莉乃の方でしょ?」
「は……っ!?」
「えー?そうかなー?」
「ふふっ。叶絵も莉乃ちゃんも、きっと素敵な人と結婚できるわよ」
「莉乃と、叶絵が、結婚……」
そう言ってお父さんが倒れる。
驚きながら慌てて起こす私達。
それからおかしくなって、私達は顔を見合わせて笑い合った。
壊れなくて、良かった。
自分で壊さなくて、本当に良かった。
そう思いながら私は家族との時間を過ごした。
~お母さんの実家~
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