第一章

4/19
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
「まてよ。じゃあ、あの作家が見つかればそれで話は片付くんじゃないのか? 」  セイジが食い下がる。確かにその通りだ。だが、レイはすぐにその可能性を否定した。 「それはもうできないと思う。この記事が出てからもう三年は経っているから、この作家の生存は絶望的なんじゃないかな」 「そんな…… 」  俺たちの間に沈黙が流れた。あの船が仮にその作家の船だったとしたら、作家はあの場所に船を停めたあと、亡くなったという可能性が大きい。つまり、あの船が帰りを待っているであろう人物はもういないのだろうということだった。  俺たちは一言も話すことなく帰り道を歩いていた。三人揃ってこの事実へのショックが大きかったから、何も話せなかったのだと思う。俺たちの心は大きく沈んでいるのに対して、日が暮れて月が見えるようになった夕空は俺たちに構うことなどなくて、ただ綺麗だった。  俺は黄昏たまま家へと着いた。なんの変哲も無い二階建ての一軒家。リビングに向かうと晩ご飯を作っていた母がいた。忙しそうだったので母とは特に何も話さず俺は階段を登って上へと上がり自分の部屋に入った。どうやら父はまだ帰ってきていないようだった。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!