3.流転三界中(悠真)

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「そうよ、”あの”敏也くんよ。だけど、はぁ~~~、これだから自己中くんは! 本当、現金よね。名前聞いただけで、この反応になる? すごい勢いで飛び起きたもんよねぇ」  女は半ば呆れ顔で見返してくる。  けれども、悠真は自分で言うのもなんだが、かなりのイケメンだ。その自分がこうして猫かぶりモードになっているというのに、全く靡かない女ということは恵まれた金髪美人巨乳という外見を差し引いても、趣味の相違。この手の女は敏也のような可愛い系男子が好みで、現世なら排除すべき要注意人物にリスインする系統だ。 「面倒くせぇ、もったいぶんな。で、敏也が何? どんな用件?」 「キミ、本当、敏也くん至上主義ね。だけど、それが人にモノを聞く態度? まぁ、私、人間じゃなくて女神だけど。アナタみたいな子は態度が悪過ぎて教えたくなくなるってもんよ。やっぱり私、帰らせてもらおうかしら? ……って、そんなわけにはいかないの、分かっているんでしょ! つべこべいわずに役に立ちなさいよ。敏也くんのこと、好きなんでしょ? 良いの、彼が目一杯危険な目にあって、痛い目にあって、苦労しても? やるの、やらないの?」 「苦労、痛い目? そんなわけないだろ。一人で苦労させない」  人の足元を見て、癪に障る。この女は一生合わないタイプだ。 「ほらね。だけど、さっきも言った通り、アナタにとっても悪い話じゃないと思うわよ。ほら、今のままじゃ、救いようがないんだし」 「分かってる。このまま行けば地獄に落ちるだけだろ? 敏也がいないなら、別に天国も地獄も同じだけど、敏也がいるならどんなところでも………。今度は間違えないさ!」 「そうよ、間違えてもらっちゃ困るわ。これも一つの救済処置だけど、どの魂にもそれなりの功徳を積んでもわらなきゃいけないから」  俗物の塊のような女にしか思えないが、少しくらいは女神らしいことも言うようだ。 「甘いことを言って、アンタがつけあがるといけないから、語弊がないようにキッチリ言うし、アンタもちゃんと正確に捉えて。一応ね、今回のアナタへの救済処置は妥当なものでもあるのよ。本来アナタはここまで重く罪を犯す予定ではなかった。言ってみれば、暴行・強姦止まり。もちろん、それも大きな罪ではあるけど、想定外なことが起きて重ねた罪もあるのよ。私達が考えていた以上に敏也という人物に気概があって、思っていた通りの間抜けさも兼ね合わせていたから、予定外の行動をして亡くなってしまった。で、アナタも自ら命を絶った。だけど、本来の予定ではアナタは一旦罪を犯すも、時間をかけて彼に尽くすことで罪を償っていく予定だったの。それがアナタに与えられた本来の試練だったからね」 「…っ」 「といっても、アナタは本質的に罪を起こすような要素を持った危険分子だったことには変わらない。そこは反省してもらわないと困る。だけど、情状酌量の余地もあるから、もう人間としては転生させてはあげられないけど、姿形をを変えて敏也の傍らで前世の罪をつぐない、本来行うべきだった陰徳も積んできなさい。分かった?」  敏也の傍にいられる。悠真とっては多大な情状酌量だ。感謝の念と共に深々と頷く。
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