3.流転三界中(悠真)

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「ただし、罪深いアナタには相応の陰徳も積んでもらわないといけないから、アナタの一番大切なもの、敏也なりくんとの前世の記憶はなくしておくわ。酷だけど、一からやり直すことが試練よ」 「……っ」  これは思いの外辛い試練かもしれない。  敏也をもう一度好きになる可能性は「ある」と断言できる。けれども、前世で犯した自分の罪を知らないまま、受け入れられなかった自分を知らないまま、敏也と接していくことになる。 「それでね、その敏也くんにはあの気概を見込んで、とある重要な任務をこなしてもらうことになっているの。アンタの件で急に呼ばれて、彼には肝心なことを何一つ言う暇なく異世界に送り出してしまったのだけど。だからこそ、アナタの敏也くんへのサポートは重要よ。アナタの記憶には使徒を支える重要な任務としか残らないかもしれないけど、今からその任務についてとくと説明するから、よく聞いて! で、アナタたちの武運を祈ってるわ」  悠真は女神から十時間にも及ぶレクチャーを受け、女神の使徒に合流すべく異世界へと放り込まれた。  女神が言うように、前世で何か罪を犯した自分はもう人間ではない。左額から黒い一角を生やした”博雅鬼(ハクガキ)”という魔獣だそうだ。  それと同時に、人間だった頃の記憶の一部は残っているというのに、途轍もなく大切な何かが抜け落ちている。  そう、とても大切な、大切な、何か。  忘れてはならない、何か。  あれは何だったのだろうか………。  ぽっかりと心に大きな風穴が開いたようで、焦燥とするばかりで心許ない。ともすればそこから自分が次々に零れ出ていってしまいそうで、咄嗟に掌を当て庇う。  自分には使徒を支え、共にその重大なミッションをやり遂げるという使命がある。それと同時に、この風穴を埋める何かを見つけなければならないようだ。  そう、それが自分に与えられた試練。  異世界にやって来ると、眼下に広大な森林が広がっていた。その全容を確かめようと、四方八方に飛行する。  この森林を突っ切って、東に行けば海。そのまま旋回して南側に向かうと乾いた大地。だが、南西によれば大きな街が開け、北には凍てつくような氷の大地が広がっていた。  こうして2,3日の間、女神から与えられた能力の確認とこの辺りの立地を確認したが、一向に先に送り込まれたという使徒の姿は確認できなかった。女神は自分を合流地点に送り込むと言っていたが、なかなかうまくいかないようだ。  ただ森林の中央に位置する岩で覆われたダンジョンから発する気は、まさしく自分たちが追い求めるアレの気配だ。とても気になった。
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