200人が本棚に入れています
本棚に追加
それに、まことにここに女神がいうところの源泉の扉へと通ずる”キー”の1つがあるというなら、いずれ使徒もここにやって来るに違いない。
女神によると、”キー”は使徒にしか持つことも、取り込むこともできないという。当然、博雅鬼の自分にはそれを取り込む能力は与えられていないのだが、それならば先回りして”キー”の有無と辺りの様子を確認しておいても損はないだろう。
博雅鬼は右に大きく旋回すると、岩山の頂きに舞い降りる。
頂きの中央には大きな穴が開いていた。穴の中は漆黒の闇で覆われていて、目視ではその深さが全く図り切れないのだが、吹き上げる風の激しさから察するにかなりの深さだということが分かる。
けれども、”キー”の在処まではここから下りるのが最短ルートだと直観した。手に光の球を灯すと、躊躇することなく穴に飛び込んだ。
底辺に近づくほど甘く誘うような芳香が強くなる。それに比例して感じる魔力も増してきた。意識を持っていかれる前に身を魔力の層で覆うのだが、そのために神獣に要らぬ侵入者が入り込んだと気づかれてしまったようだ。
突如襲ってきた風の刃をやり過ごそうと、風の能力よりも優位な火の武装をする。
この世界に転生する際、女神は自分にも使徒と遜色のない過ぎる力を与えてくれた。火・水・雷・土・風・聖・闇といった全属性を操ることができ、力を装填すると髪が属性色に変化する。通常時は藤色だった髪も、今は赤々と染まっている。
一旦は火焔放射で風の刃を凌いだのだが、それで問屋が卸すわけはなく”キー”の門番である神獣が猛烈な勢いで襲い掛かってきた。
博雅鬼の能力では排除することはできても、仲間にすることはできない。できればそっとしておきたかったが、抗戦すること幾ばくか。なるべく弱い力でやり過ごしたが、火焔放射をもろに食らった神獣が自ら張った結界を突き破って奈落の底へと落下していった。
「チィッ…」
追って入ると、ふいに背後から人間に呼びかけられた。
「ええっ、………悠真? 悠真なの? なんで? どういうこと??」
最初のコメントを投稿しよう!