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中性的な面立ち、零れ落ちそうな瞳、柔らかそうな銀色の髪が印象的な人間だった。気弱な性質なのか、博雅鬼の自分を前にオドオドとしているくせに、余程驚きの方が勝るのか、元来の大きな目を更に真ん丸にしている。
「人間。オマエが”キー”を託されたという使徒か?」
「人間って…………、僕が分からない? あの、悠真じゃないってこと?」
「”悠真”?」
「あっ、ごめん。似てたから………。だけど、使徒。それは多分僕で合っていると思う。さっきその”キー”というのに手を翳したら、肉体に取り込まれていったから」
にわかには信じがたいが、この頼りなさそうな人間が”使徒”だというのだろう。
それに、”悠真”。この使徒の顔といい、この名前といい、何だか懐かしいような、心に開いた空洞がざわめくような不思議な感覚に囚われた。
思い出せない大切な何か。
この意識に手を伸ばせば、いつかその答えに近づけるように思えた。
「残念ながら、ここの守り主は助けることができなかった。既にこと切れている。お前が真に”使徒”というなら、俺を眷属にしてみろ。俺は神が遣わした使徒の魔獣だ」
「えっ…、眷属に?」
「そうだ。俺を眷属にするには、かなりの力が必要だ。お前にその力が足りないというなら、オマエの方がこと切れるだけだ」
その人間にグイっと近寄れば、一瞬表情に恐怖と戸惑いを滲ませたが、案外気概のある者なのだろう。自らの命がかかっているというのに、覚悟を決めたのか、真摯な目でこちらを見返してきた。それを見越してか、人間のステイタス画面から機械音声が流れる。
「この博雅鬼はテイムされることを希望しています。博雅鬼をテイムしますか? YES/NO」
「YESで」
「博雅鬼のテイムに成功しました。続いて名前をどうぞ!」
この軟弱そうな人間にテイムが成功したのも驚きだが、さすがに博雅鬼のテイムにはHPをどっと持っていかれたようで、立っているのもやっとこさといった感じだ。
「やっぱりこの名前………、”悠真”。”悠真”で!」
「この博雅鬼は”悠真”と命名されました。これより敏也の眷属として従順に仕えます。続いてステータス更新に移ります。テイム・レベルMAX100。博雅鬼は1体で魔獣牽引10体枠が埋まります。他の魔獣をアイテムボックスに収納します。ピーーー」
「いきなりMAX! あはっ、すごい魔獣まで仲間になっちゃった……。これは腹をくぐって、本気で”キー”を集めなきゃ………」
「オマエではいささか頼りないが、そうしてもらわないと困る。だが、人間。この俺を”悠真”だと? 実に人間みたいな変な名前をつけたもんだな。そんな名前をつけてどうする?」
予測でしかないが、この人間にその名前を呼ばれるたびに胸の辺りがざわめきそうだ。
「ご、ごめん。他に…………、浮かばなかったから、その…、ごめん……」
「別に責めているわけじゃない。そもそもお前が主だ。俺には選択権がない。それに、街に入る時にはその名前の方が好都合だろう」
物は試しに角を隠し、ドロンと人型に化けてやると、人間はより一層驚いた顔をした。
「び、びっくりした。人間になると………、益々似て………………」
人間はグッと言葉を詰まらせる。この容姿に分からぬ誰かを重ねているというのだろうか。
「あっ、あと…………」
「なんだ?」
「その…、僕のことを”人間”って呼ぶのはやめてくれる? 一応、”敏也”という名前があるんだ。それこそ街に行った時に”人間”では困るだろうし、僕のこともそう呼んでもらいたい」
「……承知した」
けれども、”悠真”と呼ばれた以上に、”敏也”という名に胸の奥がざわめきはじめた。
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