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1.転生(敏也)
「ここは………、どこだろう? どういうところなんだろう???」
受崎敏也は、周囲をぐるりと見渡す。
空を覆いつくさんと高く茂る樹々。それに絡みつく得体の知れない植物。微かに遠くから聞こえてくるのは、野獣と思しきうめき声だ。
明らかに経験上知り得る”森の奥”とは違っていた。
「本当に……、僕は異世界に転生してきてしまったんだ」
実感した途端、膝がガクガクと笑い、冷たい汗が背中を流れ落ちていった。
「だけど、あの女神…。可愛い顔で『いってらっしゃ~~~い』だなんて送り出してくれたは良いけど、試運転もなしにこんなところ………困るよ!!」
樹海の中に一人。いつどこからともなく魔物が出てきたとしてもおかしくない。
敏也がほんの少し前まで生きていた、文明が発達した20世紀の日本とは異なり、ここは魔法が全ての世界。女神は気前よく「与えられる限りの恩恵を付与しておくから」と言ってくれたが、何の魔法が使えるのか、それはどうやったら使えるのか分からなかった。
不安と心細さから眉根がぐっと寄った。その眉間の圧に見ずとも自分が半泣き顔になっているのが分かった。
敏也は今から数時間前、その日本という国で儚くも短い人生を終えた。
いや、本来なら終える予定ではなかったらしい。不遇な手違いで、うっかりと死んでしまったのだ。
だからといって、あの世界に未練はなかった。成し遂げたい夢もなければ、どちらかといえば上手くいっていなかった。死のうが生きようが、敏也にはどうでも良かった。
敏也は中学に上がった頃から同級生からのイジメが酷くなった。とても悩んでいた。
かといって、母子家庭だった敏也は心配をかけまいと打ち明けるどころか、不登校という道に逃げることもできなかった。
けれども、敏也には鬼頭悠真という唯一無二の親友がいた。
悠真は誰もが羨む容姿と頭の持ち主で、敏也には不釣り合い思えたが、それを鼻にかけることもなく、いつも敏也の味方でいてくれた。時には敏也のことを悪く言うクラスメイトに対し、身を挺して庇ってくれることもあった。
だが、そのイジメを裏で扇動していたのは、他でもない悠真だった。
あるキッカケで真相を知った敏也は裏切り者に詰め寄り、糾弾した。
それで悠真が開き直って悪態をついたのなら良かった。蒼白となった悠真はこともあろうか男の敏也をその場に押し倒し、性的暴力に及ぼうとした。
制服のシャツを捲し上げられ、露になった体を這う生暖かい舌の感触に不快を感じた。これから受け入れさせられるだろう行為には恐怖で身がすくんだ。
敏也は悠真の手をはね退け、死に物狂いで悠真の下から這い出た。
けれども、ガクガクに緩んだ下肢では体を支え切れず、その場に派手にひっくり返った。その時、不幸にも後頭部を強打し、帰らぬ身となってしまったのだ。
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