6.魔獣ということ(博雅鬼)

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6.魔獣ということ(博雅鬼)

 ブキ・パントラン入りして、三日があっという間に過ぎていった。  今までに採取したものを換金したり、武器や防具を買い揃えたり。はたまた息抜きにと、この街の名物料理を食べ歩いたり、観光名所にも出向いたりした。  ただただ穏やかで楽しい日常だった。  使徒である敏也は別として、魔獣に転生した自分は罪深い。  思い描いていた試練とは縁遠い豊かな暮らしぶりに、女神の意図を測りかね困惑している。  前に生きていた日本では、現世で罪を犯した者は八大地獄に落とされ、苦しくも辛い償いをしなくてはならないと信じられていた。  けれども、ここでの生活は趣は違えど、悠真が送った前世のそれと大して変わらない。いわば”第二の人生”をやり直しをしているかのようだった。 (場所が変わろうと、生かされているということは変わらないのか……)  自分は一体前世でどんな罪を犯したのかは分からないが、これでは随分と生温い贖罪(ショクザイ)に思えた。  それでも失った記憶に、ぽっかりと開いた心の穴。それらを刺激する存在の敏也。  そこに悠真が改めてここで生きていく道理の答えがあるように思えた。  だが、平穏な暮らしぶりだとはいっても、この数日間が全くの心中穏やかな日々だったかといえば違った。  頼りなさげだとしか思えない使徒の敏也は女神からもらった"愛され上手"の御加護のためか、天性からのものか、魔獣に限らず行く先々で種族の枠を超えるタラシっぷりを披露した。  特にエルフのお姉さまや屈強な獣人のお兄さんたちには、絶大な人気があった。  あそこまでいくと親切を通り越して、愛の押し売りをされているみたいだ。  その上、アイツらは隙あらば敏也を路地裏に連れ込もうとするから、何度それを阻止しに割って入ったか分からない。  それなのに当の本人は懲りることなく、行く先々で人々をたらし込んでいく。その自覚は全くないのだろうが……。  おかげでいろんな者から代わる代わる助けられ、慣れない異世界であっても苦労知らずで済んだが、こちらは始終ヤキモキとさせられた。  ”愛され上手”とは、とかく(タチ)の悪い能力(スキル)だ。
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