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そんな風にもどかしく思うことは、二人っきりになった時にもあった。
魔獣となった悠真は睡眠を取る必要がない。人としての五欲の一つ、睡眠欲を奪われ、もはや眠たくすらならない。
夜が明けるのをただじっと静かに待っているだけだ。
それは便利なことでもあったが、不自由なことでもあった。
夜の静けさの中でぐっすりと眠りについた敏也を見て、その健やかに寝息を立てる様に、また心の空洞が甘く切く軋む。
規則正しい寝息は柔らかい髪をふわりと揺らし、赤くみずみずしい唇は艶やかだ。細くしなやかな体躯を赤子のように縮めて、今だけは安心なのだと気の張りを解いている。
そんな風に信頼されていることを、僕としては喜ぶべきなのかもしれない。
けれども、記憶のないはずの自分に言い知れぬ自戒の念が起こった。
あの柔らかい唇の感触を知っている。吸い付くような肌の感触も。
自らの唇に指を這わせば、苦い血の味がした。
敏也は魔獣の自分が決して触れて汚してはならない存在なのだと悟った。
『償ってきなさい』
あの時女神が放った声が木霊する。
そんな風に敏也が起きている間も眠っている間も、博雅鬼は感情を持て余した。
けれども、敏也は女神の難あり”愛され上手”の御加護があってか、それとも使命があるからか、嫌だとも言わずに罪深い自分と旅をしてくれている。
本当にそれで良いのだろうか。
だが、敏也は使命を果たした後に願いが一つ叶う。その時に博雅鬼のことが嫌ならば、いくらでも永遠の離別を言い渡せば良い。
そういう自分も旅を終えたあかつきには前世の償いが終わり、晴れて人へと戻れるらしい。
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