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7.初任務(敏也)
敏也は何か自分にもできる手頃な仕事はないものかと、ブキ・パントランにある冒険者ギルドに博雅鬼と共に来ていた。
登録に来た際も思ったのだが、ここはどんなプロテインを飲んだらああなるのかといったような、屈強な冒険者たちで溢れ返っている。
その見た目の恐ろしさに怯んで弱気になりながらも、何とか人混みを掻き分け、掲示板の元までやっていく。
女神からもらった"愛され上手"の御加護を持ってすれば、いかな悪質で意地悪な者からでも親切にされるというのに。
いや、どちらかと言えば、この世界に来てからというもの、親切を通り越してグイグイと迫ってこられ、別の意味で恐怖を感じることばかりだ。気づかれないように、こっそりとやり過ごすのが一番の得策だろう。
(そうだよ、ここはなるべく目立たないようにだよ!)
それこそ先日、博雅鬼に目立たぬ方が良いと釘を刺されたが、まさにこういう意味でも目立たない方が良いに違いなかった。この数日で身をもって学んだことだ。
「あの、博雅鬼? ちょっと良い?」
「なんだ」
遠慮がちに呼びかけると、博雅鬼は少し身をかがめ、目線を敏也の高さに合わせて、真摯に耳を傾けた。
「うん、この依頼なんだけど、何だか…………」
「気になるのか?」
「うん、ちょうど良さそうというより、この場所がとても気になるんだ」
サラッと見た感じでは、なんてことはない軽い任務だ。ギルドからの提示ランクも低く、Cランクの敏也なら十分に果たせる依頼内容だった。
けれども、ちょうど良いから目に留まったわけではない。依頼の貼り紙に書かれたパナスという隣村の名に、腕に浮かび上がった鍵留の一つがモゾモゾとざわめくのだ。
ㅤ鎮まれといわんばかりに、そこを服の上からゴシゴシと擦りあげる。
博雅鬼も博雅鬼で、顎に手を当てて、長い間依頼書と睨めっこして考え込んでいる。
「なら、行ってみるか?」
「あっ、うん。行ってみたい」
「俺もここは何だか気になる。直ぐにでも出かけよう!」
博雅鬼も女神から遣わされた使徒の眷属だ。何かを察知する能力が備わっていてもおかしくない。
その博雅鬼もこの依頼書に感じるものがあるとするなら、ここに”キー”に関する何かがあるのかもしれない。
そうだよね。博雅鬼と出会ったのも、最初に”キー”を見つけたダンジョンだ。
二人は一も二もなく決断すると、パナスという隣村に向けて発った。
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