200人が本棚に入れています
本棚に追加
けれども、魔獣である博雅鬼とヒューマノイドである敏也とは時の流れも、老いる早さが違った。
この地に来た時は幼顔の敏也の方が随分と若く見えたものだが、七年経った今では敏也の方が見た目には兄のようだ。
ゆっくりと老いる博雅鬼。
恐らく敏也とは寿命も異なるはずだ。
魔獣に落ちるとは、いかに厳しい咎なのか。
――可愛そうな魔獣
敏也は、博雅鬼が前世に犯した罪が何なのかは、はっきりとは知らされていない。
もちろん、博雅鬼の見た目や雰囲気からそれを悟ることはできた。
それこそ時折見せる前世の仕草や考え方はまさに悠真であった証であり、記憶だけがごっそりと抜け落ちた状態で敏也と共にある。
今では女神が”あの悠真”を敏也の元に遣わせたのだと確信している。
だが、博雅鬼がかつては悠真そのものであったにせよ、記憶をなくしていたにせよ、もはや悠真であって悠真ではない。着実に一生ける者として自らの足で立って、険しくも幸ある道を前へ前へと歩んでいる。
この世界で過ごした日々は、博雅鬼にとっても彼だけのものだ。
だからこそ、敏也の中でいつしか博雅鬼が”悠真”かどうかということはどうでも良くなった。
かけがえのない大切な存在として、今は”博雅鬼そのもの”を見ている。
もし今の博雅鬼が敏也のことを望むというなら、いくらでもこの身を捧げて応えたいと思う。
どんなにそれが恥ずかしい行為だとしても出来る。
今になって思えば、前世のあの時でさえ、心から悠真を拒んだわけではなかった。裏切られた衝撃で行為を受け入れられなかっただけだ。
あの時既に敏也は悠真に惚れていたと思う。
そうでなければ、異世界に来て博雅鬼を見た時に、そこに悠真の面影を見出して心の拠り所にしようとはしないだろう。十分に慕うだけの素地があったのだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!