200人が本棚に入れています
本棚に追加
けれども、博雅鬼はどうだろうか。同じように敏也のことを慕ってくれているようには思う。
だが、見返りや体を全く望んではこない。常に何かと葛藤し、自らを厳しく律している。
いつだったか、森の中で野営をしていた時のことだ。
睡眠が要らない博雅鬼は常に起きているから、敏也がその寝込みを襲おうとしたところで隙が全くない。寝ぼけたふりをして、博雅鬼に甘えた唇付けをしたことがあった。
けれども、パチリと目が合った博雅鬼の瞳の奥には、明らかな色欲とそれには負けまいとする隠忍自重とがぶつかり合って、たいそう辛そうに貌を歪ませた。
それでも宥めるように敏也の髪を梳く博雅鬼に、酷なことをしたとひどく悔いたものだ。
今でも唇に指をあてれば、あの時の博雅鬼の体温と共に、辛苦に歪む博雅鬼の貌もまざまざと蘇ってくる。
博雅鬼が自らを許すまでは、敏也も二度と不用意に触れてはいけないのだと誓った。
最初のコメントを投稿しよう!