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9.五蘊皆空(博雅鬼)
※ こちらの章は、ほんの一部を加筆したレーティングありversionを特典2の別冊版で取り扱っています。
もちろん作者のちょっとした拘りの表れですので、本編には全く影響ありません。
もし制限表現に抵抗がないようでしたら、そちらを覗いてみてください。
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敏也と遥かなる旅路を行く。時は巡り、かれこれ七年が経とうとしている。
共に行く旅はあまりにも幸せで、これが罪の償いなのかと懐疑する。
それでも自分は救いがたい魔獣で、どう足掻いたところでヒューマノイドである敏也とは同じ土俵には立てない。
いかに己が醜く人間でないことを思い知ったか。
いかに前世の過ちを呪い悔やんだか。
この長いとも短いともいえない七年で、身に染みて感じたことだ。
そうはいっても、未だにはっきりと前世の記憶があるわけではない。少しずつはその記憶も戻ってきているのだが、どれもが断片的だ。
(知らぬこともまた、試練か……)
けれども、前世の自分は確実に敏也と出会い、深く関わっている。敏也が精神の拠り所だったと言っても過言ではない。
ただ蘇ってきた記憶はどれもがおぼろげで、肝心な罪の部分はとんと思い出せないから、察せられるのはそのために敏也を裏切り傷つけただろうことだけだ。
己の過ちを見通す尺度さえ見当たらず、ひたすらに過ちを罪深く思う。
そんな風に日々忸怩たる思いに悩まされているというのに、ふとした時に蘇って来るのは、調子の良いことに何気ない敏成との日常の良い思い出ばかりだった。
それは敏也がとうにこの俺を許し、受け入れてくれているからなのかもしれないが、ふとした敏也の柔らかな表情が淡い記憶のそれと重なる。
少し裕福な家で育った前世の自分は、金はあるけれど愛は薄いといったギクシャクした家庭で育った。ゆえに、居場所を見つけられず、当たり障りのない良い子に収まっていたと思う。
しかも、親譲りの器用さで何でも卒なくこなせたものだから、それを演じ続けるのも容易だった。
それが多感な時期と相まって、思い通りに運ぶ世の中、一原子でしかない自分、目に映るもの全てが、味気なくてつまらないものだと感じるようになっていた。
そんな自分と敏也とは対称的だった。
敏也は何をやらせても、途轍もなく要領が悪かった。クラスでも悪目立ちをしていた。
それなのに愛情いっぱいの家庭で育ったのか、普通なら親に反抗をする年頃だというのに、変わらずに健気で無垢な笑顔を周囲に振りまいていた。
それが妬ましく、当初は虐めたおして壊してやりたいと思っていたのに、悠真に向けられる笑顔も温かくて、敏也の隣がとても居心地良く思えた。
数十年の間に冷え切っていた心にはっと熱がこもり、そこから目に映る世界が色鮮やかに広がっていくようだった。
その敏也だが、大きな犬を一匹飼っていた。傍目から見てもとても大事にしていたと思う。
そんな犬と俺とが、敏也は似ていると言って譲らなかった。
だが、何度か散歩しているところに遭遇して、その犬を見かけているが、とても似ているようには思えなかった。
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