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10.混沌、そして最後の手がかり(敏也)
敏也は袖を捲り上げ、腕にびっしりと並んだ"キー"と数字の紋章に目を落とす。
(あと二つか……)
女神から託された"キー"集めもここまで割りと順調に進み、面前の沼に沈んでいるだろう"キー"を取得してしまえば、王手を掛けたも同然。
だが、最後の"キー"に関しては在り処の察しどころか、僅かな手がかりさえ全く掴めていない。よほど特別な"キー"なのだろうか。
そう思う節は他にもあった。一つだけ他の"キー"と比べて、鍵輪の大きさも形も違う。
博雅鬼のことを思えば早く見つけてやりたいと思うが、気が逸るばかりで案すら思い浮かばなかった。
けれども、博雅鬼の方は敏也とは真逆で、どうも"キー"が集まってしまうことを恐れているようだ。
この頃は"キー"を取得する度に、とみに捨て犬のような寂しそうな表情を浮かべた。まるで集めきったら敏也との別れが来るとでも言わんばかりに。
(捨てたりなんかしないのに……)
そんなありもしない別れの覚悟はしなくとも良いのだと、博雅鬼の厚い胸に腕を回す。
すると、博雅鬼はあからさまに照れてぼやいた。
「大丈夫か? 沼に潜るのが怖いのか?」
とんだ見当違いな言葉が返ってきた。
「潜るのが? みくびらないでよ。これでも僕は遅いだけで、ちゃんと泳げるんだから!」
前世で幼少の頃にスイミングスクールに入れられていたから、人並み程度には泳げる。
敏也は言うが早いか、水の中にざぶんと飛び込んだ。
「うわ~~、って、えぇ――――――っ!!」
異世界あるある、飛び込んだ瞬間に服の生地がスルスルと溶けて赤子同然の姿になるという珍事。しかも、布は溶けるのに体は溶けないという不思議。そんなとんでもない事態に陥ってしまった。
(何これ? また"ラッキースケベ"ってヤツだよね?)
こういった珍事をもう幾度となく繰り返しているというのに、我ながら全く学習能力がない。残念過ぎる。
博雅鬼に腕をむんずと掴まれて、陸に引き上げられる。
けれども、時既に遅く、情けない格好に成り果てていた。
「と、溶ける湖だなんて聞いてないよ―――!」
そんなハプニングに見舞われたものの、気を取り直して魔布でできたマントを羽織り、シールドを厳重に張って、地底に沈む神殿へと向かう。そうしていつも通りに難なく"キー"を取り込んで戻ってきたところで、嫌な胸騒ぎを覚えた。
この世界の何かが変わろうとしている!
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