12.終着点、自然であれ(敏也)

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12.終着点、自然であれ(敏也)

 敏也に”キー”が集まると、今度は腕の紋章が神々しく光輝きながら、敏也の指先を起点として(ツル)のようにスルスルと四方八方に広がっていく。  それがどこまでも伸びて、この世界を囲みつくしてしまうと、次々にカチリと大きな鍵の開く音を立てた。 (異世界風の除夜の鐘か……)  その鍵音と共に、陽だまりのような温かい気が一気にこの世界へと流れ込んできた。  煩悩に染まった空も次第に浄化されて澄み渡り、ありもしない噂に踊らされていた人々の醜い心も、血に染まった大地も、跡形もなく純粋な姿へと変わっていった。  時間にしたらどれくらいだっただろうか。ほんの僅かな間だったような気もすれば、割りと長い間でもあった気もする。  眩い光りが収まった後には、いつものまったりとした異世界の情景が戻っていた。 「終わったのか……」 「終わったようだな」  感慨深く言葉を漏らす敏也たちの元に、天から女神が舞い降りてきた。  そうはいっても、実態があるわけではない。そもそも女神が敏也をこの地に遣わせたのだって、女神といえど直にこの世界に関与することができないからなのかもしれない。 「……女神さま」 「ご苦労さま。貴方を見込んで、この世界の行く末を託して良かったわ。助かりました。神を代表して礼を言います」 「いえ、女神さま、僕の方こそ、悠真との貴重な時間をありがとうございました。自分にとって何が大切なのか、自分が何を求めどう思っているのか、悠真との旅を通して今一度自分自身を見つめ直すことができました。学ぶべきことが多かった七年間でした」  敏也の言葉に女神はニンマリと微笑む。  ”キー”集めは一つの名目上の目的に過ぎず、本当に女神が敏也たちに与えたかったことはこちらの篤行(トッコウ)や鍛練の方だったのかもしれない。  女神は次に悠真の方に視線を向け問う。 「貴方はこの七年間、魔獣として思い悩み苦しんできましたが、どうでしたか。得たものはありましたか」 「思い通りならない己を律することの難しさ、己の弱さや未熟さを学びました。その中で当たり前のように大切な人がいて、共に行動し感じることの歓びや苦しみに、かけがえのない幸せと尊さを感じました」 「実りある七年にできたようですね。貴方の贖罪(ショクザイ)はとうに終えていますが、この先どうしますか」 「敏也の思う道を享受します」  悠真が女神に向かって深々と頭を垂れる。 「では、敏也、貴方にも聞きます。使命を果たし終えたあかつきには、何でも一つ願いを叶えると言いましたが、貴方はこの試練の旅を終えて、何を願いますか?」
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