12.終着点、自然であれ(敏也)

2/2
前へ
/57ページ
次へ
 あれほど俗物的に思えた女神も、紛れなく神だった。この試練の旅で与えてくれた気づきや恵みに感謝している。  もちろん未熟な敏也たちへの情状酌量のある旅でもあったことも、よく分かっている。 「女神さま、はじめは博雅鬼の罪の許しを乞い、人間にしてくれるように頼むつもりでした。けれども、罪は自ら償うことでしか意味がないのだと、罪が許された今では感じています。だからこそ、こうしてまた悠真と共に過ごせるならば、他に何も望むことはありません」 「欲のない人間ね。前世に戻りたいとも、時の違いで生じた差を埋めたいとも思わないのですか?」 「人間ですから……。時の流れに身を任せ、その運命を享受して、ありのままに生きたいと望みます。”自然であれ”それが、僕の願いです」  女神の申し出を返上したも同然の願いかもしれないが、敏也たちも例外なく生かされているのだからこれで良い。  女神は「本当に欲のない人間ね」とクスリと笑い声を立てると、敏也の身体に視線を落とす。 「ん? どうしました?」 「貴方は必死で、すっかり自分の置かれた状況を忘れているようだけど、服がところどころ溶けて素肌が大きく露出しているわよ! まさに自然児過ぎるわね」 「っ!!!」 「早く新しい服を取り出して着ないと、そこの人間がまた過ちを犯してしまうかもしれない。そうなったら大変よ。本当、罪づくりな使徒よね」 「……っ」  たとえ悠真と何があったとしても、もう合意以外にないのだけれど。  そんな風に女神は爆弾発言を置き土産にすると、身を翻し意気揚々と去っていく。  けれども、女神は振り向きざまに「幸あれ」と祝福のご加護を掛けてくれた。そんなところが心根の優しい女神だと感じる。 「もう、本当、散々からかってからのご加護って、何なんだろうね?」  ポツンと残され二人になった敏也と悠真は互いに顔を見合わせ、声を立てて愉快に笑い合った。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

200人が本棚に入れています
本棚に追加