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それこそ悠真の身に何かあってからでは大変だ。敏也はギョッとして悠真の手から実を奪い取ろうとする。
けれども、敏也よりも長身の悠真に手を高くまで上げられたら敵わない。躍起になってピョンピョンと飛び跳ねる。
「ダメだ、ダメ! 悠真こそ、絶対にダメだ」
「敏也、心配するな。俺には魔獣だった時の耐性が残っている。今も身体は頑丈なんだから、まずは俺が試すのが正解だろ? 危険な橋は渡るな」
確かに悠真は今も魔獣だった時の能力と体質を残している。それでも食べて悠真の身に何かあったら大変だ。
それに、もし敏也の身に何かが起こった時には悠真がいる。アラクネの粘液を被った時のように解毒してもらうこともできれば、まだ真昼間だけど悠真自身に身体を楽にしてもらうことだってできる。
そう思って二人ですったもんだと実を奪い合いをしていると、ふいにこの場にのっそりと現れたオークの名無し001が背後からその実をピュッと掴み取った。そのまま止める間もなくパクリと口に入れてしまった。
「ああ、喉が渇いた~~、むしゃ、むしゃ、むしゃ。これ、変わった味するけど、旨い~~~」
「…って、あ―――――――っっ!!!」
余程美味しかったのか、名無し001は更に収穫籠からも五、六個摘まみ上げ、大口でパクリと食べてしまった。
いくら体が大きいからといっても、この実にアラクネの毒があった場合、それだけ食べたら確かな摂取量になるだろう。
案の定、普段からも半分上向きのような名無し001の雄が、すさまじい勢いで天に向かってニョキリと仰いだ。
完全に変なスウィッチが入ったようだ。名無し001が敏也めがけて突進してきた。
その暴走を止めようと、悠真が絶妙なタイミングで足をかける。
すると、名無し001は派手にすっ転んで、痛みに足を抱かえて悶絶する。
けれども、よほど赤い実の媚薬効果が強いのか、足を抱えながらも敏也の方へと巨体をズリズリと這わして迫ってくる。
「ひぇ―――――っっ。名無し001、落ち着いて~~~~! お願いだから、止まって―――!」
魔獣村全域に響き渡る声で絶叫する。
けれども、すんでで魔獣たちに取り押さえられた名無し001は、すかさず悠真によって解毒され、みんなからやんやと怒られている。あの大きな身も小石のように縮めて。
「だけど、あの実、やっぱり食べてみなくて……、良かった…………」
一件落着!
こうして効果のほどもバッチリと分かった赤い実は、少しの摂取でも媚薬効果があるとして、”愛のエッグプラント”の名で魔獣村きっての新特産物となった。
”愛のエッグプラント”は瞬く間に大人気となり、セレブたちの間で高値で売買され、沢山の食い扶持を抱えている魔獣村も左団扇で暮らせるほどの収入がどっどと舞い込んできた。
とはいえ、笑いが止まらないということはなく、名無し001みたいに誤って食してしまうものはいないかと、日々新たな心配にビクビクと怯えている。
今日も街で収穫物などを売って戻ってきた敏也と悠真は、食事班のみんなが腕を振るってくれた料理が並んだ食卓につく。
「今日の夕飯は何かな? あれ、新しいメニューだね。トマトスープかな? なんかトマトスープにしては毒々しい赤色だけど」
「そうだな。酸味のある匂いはしないけど、何だろうな?」
「悠真、お腹もすいたことだし、魔獣たちが作ってくれたことだし、冷めないうちに味わわせてもらおうか!」
「ああ」
END
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なんやかんやと楽しそうな生活を送っているようです!
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