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入り口のある高さもさることながら、中に入った時の試練を思うと逡巡した。
何も好き好んで異世界の英雄になりにきたわけではない。要らぬ苦労は必要ないと思った。
それと同時に、街の在処も分からぬまま無作為に進む敏也にとって、このダンジョンの存在が意味するところは必要悪なのではないかとも考えた。
けれども、そんな複雑な敏也の気持ちとはお構いなしに、甘美な欲を誘う芳香が中からぷんと漂ってきた。
それが罠であるには違いなかったが、手で鼻を覆うのが早いか、匂いに誘われた魔獣たちは敏也を担ぎ上げ、あれよあれよと岸壁を駆け上っていった。そして、そのまま漆黒の闇に包まれたダンジョンの中へと進み入ってしまった。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って。止まってよ!!」
外から見た感じでは中には相当な頂きの高みへと昇る道が続いているものだと思ったが、むしろ地中の奥深くへと下っていっているように思えた。
「だから、待って、待ってよぅ!」
けれども、こうなってしまっては仕方がない。最善を尽くして、どうにか罠や魔獣からの攻撃をやり過ごす他ない。
すると、すっかりお馴染みになったステイタスバーの右端に、お知らせをを告げるポチマークが煌々と点灯した。
直ぐさまタップし、キャプションを確認する。オススメ能力と称し、ダンジョンで有効そうなスキルが並び示されていた。
「じゃ、取りあえず、これ。ライトアップ!」
辺りが日中の明るさになった。
「続いてこれ、魔力探知!」
眼前にダンジョンマップが映し出され、迷路のように入り組んだ道筋と、その各所に張り巡らされたトラップポイントが青く、魔獣が控える場所が赤く記されている。
敏也の魔獣たちをかどわかしている芳香もダンジョンの最下層から漂っているようで、妖力にも反応して黄色くその流れがマップに映し出されていた。
そう、下に進むにつれ、その濃度は桁違いに濃密になっているようだ。
「絶対にその方面はヤバいよね? 何かいるに決まってる。それに、あちこちにトラップも魔獣もいるんだから、闇雲に進んでいったら危険なんだって。だから、止まってーーー!」
声を張り上げたところで、匂いに操られた魔獣たちを制御するのは困難で、一向に止められそうにない。テイマーとしてどうかと凹むところだが、敏也が得た従者たちは思いの外優秀だったようで、現れる魔獣もトラップも他愛なく薙ぎ倒していく。
(もしかしてイケる?)
しかも、敏也自身には女神が与えてくれた毒耐性のスキルが効いているのか、スケルトンをテイムした時に身に付いた無効力化のスキルゆえか、内心では至極焦ってはいるものの、匂いに惑わされることなく確固とした意思を保てている。
(こうなりゃ、仕方がない。成り行きに任せるしかないか)
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