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衝凸
まぁ、世間というものは融通も機転も利かない頑固な親父のようなもので、私の様なはみだし者が行き着く先は社会で問題視される子供が集まる施設だった。
登校ともいうべきなのか、それとも通い始めともいうべきか。とにかく初日はかなり憂鬱な気分だった。問題児が集まる施設なんて、どうせ奇声を上げながら突然暴れだしたり、物をぶっ壊す話の通じない奴が大勢いるんだ。
あぁ、げに恐ろしき!心の中で悲鳴を上げながら、扉を開いて拍子抜けした。部屋の中は罵声も飛び交っていないし、物も壊れていない。むしろ綺麗だし、施設に居る児童はおとなし過ぎるほど静かだった。
「初めまして、君がサラだね」
そう挨拶をしたのは、黒縁の眼鏡を掛けた男性だった。身長約186cm、体重は目測で78kg、筋肉質でがっしりとした体形。足も速そうだし、嫌な事があっても逃げ切るのは難しそうだ。
私はげんなりしながら、挨拶を返した。
「初めまして、よろしくお願いします」
「僕はレヴィ、この部屋を担当する職員だ」
この部屋の、という言葉に引っかかって顔を上げた。レヴィは優しそうな垂れ目をキュウッと細めて私の方を見つめている。さっき感じた違和感は何だったのだろうか。心の中のもやもやが晴れないうちに、隣の母ちゃんから引き離されて部屋の中にあった教壇のような場所に立たされる。
「みんないったん手を止めて。一緒に勉強をする子が新しく入った。サラ、自己紹介をしてくれるかい」
何の前置きもないまま、レヴィは私に自己紹介をしろと促してくる。部屋の入り口でしゃがみ込みながら様子をうかがっていた母ちゃんの方を見ると、さっさとしろといった様に手をふらふらさせている。
母ちゃんに逆らうと、後が大変面倒なのでおとなしく喋る。
「サラです、カリヴァ州の学校に通ってました。仲良くしてください」
必要最低限の情報と、名前だけで締めくくると、部屋の中にいた全員がパラパラと拍手をし始めた。絵に描いたような温かい空間、皆が他者を思いやる優しい場所。初日から、溶け込めそうもないな、などと考えていた。
そうして、その考えは間違っていなかった事が、たった数日後に表れてしまうのも、私の問題児たらしめる要素である。
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