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レヴィに案内されて、机の前に置いてあった椅子に腰を掛ける。隣に居た男の子が、馴れ馴れしく話し掛けてきた。
「俺、トラン!よろしくな、サラ」
「よろしく」
誰にも構われたくなかったので、それ以上会話が広がらないように返事を返すと、トランと名乗った隣の席の奴はふぅんといって私から興味を逸らした。
窓の外を眺めていると、教壇に戻ったレヴィが大きく響く声で挨拶をし始めた。これがまた絵に描いたような好青年がやる朝礼で、明るくハキハキした喋り方である。
うんざりしながらその挨拶を聞いていると、母ちゃんは安心したのか手を振って部屋の入り口から姿を消してしまった。
フィラはどうしているだろうか。窓の外に浮かぶ大きな入道雲を眺めながら、考えているとレヴィはいきなり私に話し掛けてきた。
「じゃあ、サラ。隣に座っているトランに教科書を借りて問題を解いてくれ」
その言葉を聞き、驚いて顔をレヴィの方へやる。奴はニコニコしながら私が答えるのを待っていた。隣に座っているトランとやらはしぶしぶといった様に教科書を私に差し出した。
なんだこれは。
事前に聞かされてもいないのだろうか。答えられない私をトランが怪訝そうな顔でみてくる。
やめてくれ、みないでくれ!熱くなった顔を覆い隠す様に机に突っ伏すと、レヴィが笑い声を上げた。
「初日だから緊張してるんだね、じゃあナタ」
「はい」
授業は何事もなかったように進んでゆく。顔が上げられずに、ひたすら腕の中でうずくまっているとトランが肩を揺さぶってきた。
「おーい、具合でも悪い?」
「うるさい」
「なんだよ、問題解けないぐらいでイジけるなよな」
トランはため息をついて、教科書に目を戻した。難なくスラスラと文字を書き、問題を解いてゆく。
「教えてやろうか?」
私が見ていたのに気が付いて、トランが話し掛けてくる。私は黙ったまま、教科書をじっとみた。やはり文字が読めない。
「問題を読み上げて欲しい」
「黙読すればいいだろ、他の奴の邪魔になる」
「頼む、読んでくれ」
そういうとトランはしぶしぶ問題を読み上げ始めた。その問題を解いてゆく。
「なんだよ、出来るじゃん」
「違う、出来ない」
「ほら、教科書貸してやるから答え書けよ」
トランは私の方に教科書をやり、机に膝をついて答えを書くのを待ち始める。こうなったらヤケである。鉛筆を持って紙に文字を一生懸命書こうとした。
「…あ〜、なるほど」
「そういう事」
トランは納得した様子でうんうんと頷き始める。
「こりゃ、レヴィが悪いわ。事前に聞かされてるはずなのに、アイツいっつも忘れるんだ」
「恥ずかしかった」
「いや、そうだよなぁ。レヴィは悪い奴じゃないんだけど」
「関係ない」
膨れっ面でそういうと、トランは苦笑いをした。
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