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ウミガメが海中に姿を消すと、アディーノは土を掘り返し始めた。私はそれを黙って見つめている。やがて卵が顔を出すと、アディーノはそれらを慎重に両手で掬い、彼の顔から溢れんばかりの笑みが零れ落ちた。
「なぜ掘り返したんだい?」
私は無表情のまま彼に意図を尋ねた。
「僕はもともとウミガメの卵を売って生活していたんだ。美味しいからよく売れるんだよ。ゴミ拾いなんかとは比べ物にならないくらい稼げるんだ。ウミガメが来なくなって、仕方なくゴミを拾ってたんだけどさ。……カルロス、ありがとう。君のおかげでウミガメは戻ってくるようになったし、日銭は稼げるし、一石二鳥だよ」
アディーノは無邪気に微笑んだが、そのあどけなさに入り交じって、私はある種の狂気を感じた。
「ウミガメは美しいのものではなかったのか?」
アディーノはポカンとした。
「ウミガメは美しいけど、僕が生きていくには仕方のないことだし」
私の中では葛藤が起こっていた。しばらくしてアディーノは不思議そうに尋ねてきた。
「泣いてるの?」
アディーノが心配そうに私の顔を覗き込む。
「いや、AIは泣かない。これは体内に入り込んだ水分の排出だ」
人間は悲しいときに涙するという。人間の感性を持ちながら、このような境遇に生まれた少年に、私は矛盾を覚えた。
『世界に分布しているウミガメは現在、全て絶滅危惧種に指定されています』
私の中でデータが再生されたが、口にしなかった。
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