ウミガメの涙

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 翌朝、アディーノはいたたまれない気持ちでビーチを訪れた。昨晩は虫の居所が悪く、つい不本意なことを口走ってしまったが、カルロスと仲直りがしたい。まだ間に合うとビーチへ急いだが、いくら見渡してもそこにカルロスの姿はなかった。アディーノは急に不安に襲われた。  けれどもよくよく探してみれば、何やら砂浜に深い足跡が見える。それは海へと続いていた。そして波打ち際には、昨日までなかった木造船が打ち捨てられている。  ようやく海底に沈むカルロスを見つけた時、既に日は暮れかかっていた。アディーノは海に飛び込み、船にあった網をカルロスに引っ掛けると、船上から力いっぱいに引っ張った。カルロスの上半身は海面に出たが、それ以上は引き揚げられない。アディーノは支えるだけで精いっぱいだったが、急にカルロスが動き出した。そしていとも簡単に自力で船に乗り込み、木造船はぐらっと揺れた。 「何があったの?」  息を落ち着かせるとアディーノは尋ねた。 「浜辺でウミガメを待っていたら、あの男たちがやってきて、アディーノが溺れていると言った。私はアディーノ以外の命令は聞かないが、アディーノを守るようにもインプットされている。私は船に乗り、溺れたという沖合まで連れて行かれた。私が海を覗き込んで確認すると、背中を押されて海へと沈んだ。私は泳ぐことはできない」  どうやらカルロスはギャングに騙されたらしい。収入源を奪われたギャングの復讐だろう。 「僕は漁師の子だよ。溺れないよ」  アディーノはクシャクシャの顔で微笑んだ。カルロスの思いやりに涙が止まらなくなった。  どのくらい経っただろう。いつまでも浜辺で抱き合っていると、突然波の中から一匹のウミガメが姿を現した。そのまま砂浜を這いずり、ある一点で止まると、ウミガメは産卵を始めた。  カルロスは、人間が神秘的に感じるという光景をただ見つめていた。
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