ウミガメの涙

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 アディーノは今日の出来事を信じられないでいた。いくら技術が進歩してロボットが普及し始めたといっても、途上国の貧困層には無縁のものだった。見たこともなければ触ったこともない。  少年の母親も驚いた。一見普通の人間にしか見えないため、アディーノが見知らぬ男を連れて帰るや否や、(なた)を持ち出して応戦しようとしていた。  あれから紳士の方は、説明を全てロボットに委ねた。自身が覚えた現地語が限界だったのかもしれない。 「私は3000の言語を話すことができる」  流暢なテトゥン語にアディーノが驚嘆すると、ロボットはそう付け加えた。  ロボットによると、現在のAIはこの程度なら標準機能として装備しており、また難しい操作もいらず、アディーノが命令するだけで行動するよう設計されているということだった。  アディーノは半信半疑に、今日集めたゴミをリヤカーで回収業者まで曳くように命じた。するとロボットは素直に従い、アディーノは開いた口が塞がらなかった。  アディーノは明日からの作業を思うとワクワクして眠れなかった。しかし彼は(しもべ)ができたというよりも、頼もしい友達を持った心境だった。  アディーノに友達はいない。優しいアディーノはさっきみたいに、ガマのような乱暴者の前では委縮して下手(したで)に出てしまう。 「ねえ、君の名前は?」  眠れないので、アディーノは寝返りを打ってロボットに尋ねた。本当は寝かせたいのだが、狭いのでロボットは枕元で立たせてある。 「試作清掃用ロボット、浜辺タイプ、CB‐101です」  アディーノは聞きなれない言葉に煮え切らない顔をした。 「変な名前。呼びにくいよ。……そうだなあ、君は強そうだし、カルロスにしよう。これからよろしくね、カルロス」  アディーノはニッコリと微笑んだ。 「分かりました。あなた様がそう呼びたいのであれば。私の名前はカルロスです」 「堅っ苦しいなあ。僕のことはアディーノって呼んで」 「分かった」  カルロスは淡々と返事を繰り返した。
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