ウミガメの涙

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 ここ東ティモールの海岸は色とりどりだ。それらはくすんでいるためお世辞にも鮮やかではないのだが、そもそも海においては白い砂浜と青い海の二色が美しいとされている。砂浜を彩るゴミの山は海の景観に必要ない。  ここ数百年、科学の発展は目覚ましい。しかしそれに伴う産業廃棄物の処理は追い付いていない。  この海岸も数年前まで美しいビーチだった。産業化の波がこの国にも押し寄せ、経済を第一に、環境問題を二の次にした結果、不法投棄が看過されている。  また、産業の発展は同時に貧富の格差も引き起こした。早朝、年端も行かぬ少年少女たちがゴミ山を掻き分け、せっせと金になる物を漁っている。  場面はそこから一人の少年のインタビューへと移行した。 「僕のお父さんは漁師だったんだ。でも、海が汚れて魚が獲れなくなっちゃって……。学校? 行ってる暇なんてないよ。僕たちも働かなくちゃいけないからね。綺麗な海が戻ってきてほしいよ」 「どうだね? 今の映像を見て、何か感じたかね?」  私の隣で一緒に映像を眺めていた男が尋ねてきた。起動してすぐに私は今の映像を見せられたのだ。 「海が汚れています。人間の出した廃棄物のせいです。このままでは生態系を破壊してしまいます」  男は無表情だ。 「では、君の任務は何だね?」  私はキュイーンと無機質な音を響かせながら男に顔を向けた。 「この浜辺を綺麗に掃除し、またその状態を保持することです。私はそのために作られました」  この答えをもって目の前の男は口元に微笑をたたえた。自らが生み出した傑作に満足しているようだ。 「その通り。君がこの海をもとの美しい海に戻してくれれば、我が企業は環境保護活動に貢献している優良企業として世間にPRできる」  男は何やら狡猾そうに目を細めたが、その腹積もりは私には関係がない。ただ命じられたことに従うだけだ。 「君を(くだん)の少年に提供する。あの少年とともに、海岸の掃除に励んでくれ。君の目に映る映像は全世界に配信されることになる。期待しているよ」  男は私の肩をポンと叩いた。
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