契約は少し強引に

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 そう声をかけると、中にいたスタッフたちが一斉に口元に人差し指を当てた。  意味は『黙っていろ』だ。 (……ああ、そういうこと)  さっきまで騒いでいたくせにと思ったけれど、なにが行われているかを知ってすぐ理解する。 「表情が硬い。そんな顔でカメラの前に立つな」 「すみません……!」 「謝罪する暇があったら行動で応えろ」 「はい!」  鋭い指摘は若いモデルの子だけでなく、私の胸にまで小さな痛みを生んだ。  彼女を叱咤しながら撮影しているのは、天才フォトグラファーと名高い神宮寺豊(じんぐうじゆたか)さん。  気難しい、怒りっぽい、笑ったところを見たことがない――などなど、よくない印象を聞く方が多いその人は、そんな態度では干されかねないこの業界を自らの腕だけで乗り切っていた。
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