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永遠にも思える刹那の時間。ゆっくりと過ぎていくその時間を破ったのは少年の方だった。
「ちゃんと持ってろ」
少年はそう言うと、ぶつかった時に少女が落としてしまった鞄を持ち上げる。そして少女にその鞄を差し出す。
「あ、ありがとうございます……」
少女がその鞄を受け取ったのを認めた少年は、少女の頭を一度ぽん、と叩くとその場を去ろうとする。
(……!)
その瞬間高鳴る少女の胸。
少女は内心で、やられた! と思った。
思わず、立ち去ろうとしている少年のシャツを、後ろから引っ張ってしまう。
「何?」
少年からの問いかけに、少女は咄嗟に言葉が出てこなかった。
少女の髪を揺らす一筋の風が吹く。
「用事がないなら、俺、行くよ?」
(あ……)
そのまま少年が去って行く背中を少女はただ黙って見守ることしか出来なかった。
バスの中、少女は少年に叩かれた頭に手を置いて考えていた。ここまでは夏の暑さは届かない。
涼しい車内でただただぼーっと窓の外を眺めながら、思うのだった。
(これが、恋、なのかな……)
名前も知らない、一度しか会ったことのない少年への思いを募らせながら、バスは進んでいく。
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