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『スッキリした、不思議と』
今、分かった。
私は泣きたかったらしい。
突然異世界に飛ばされた理不尽も、訳が分からないまま空から落とされた恐怖も、右も左も分からない世界で生きていかなければならない苦悩も、全て、全て受け入れてきた。
しかし、許してはいない。
召喚に関わった奴ら、全員死んでしまえっ!!と思っている。
負の感情を抱え続ける事は苦しい。
どこかで何かにぶつけなければ、いつか爆発する。
だが、私には権力に歯向かう根性も弱者に八つ当たる根性もない。
それが分かっていたから、敢えて目を逸らした。
奴らを恨むかわりに顔を上げ、奴らを憎むかわりに前に進んだ。
その内に泣く事を忘れ、あの日から一度も泣いていない。
『泣くという字は三水に立つと書くって、一の竹寺さんも言ってたっけ』
母の通夜の日、導師は面白い話をしてくれた。
【大切な人を亡くして、悲しくない人はいない。
涙は心の安定剤のような物、泣く事は立ち上がる為の準備でもある。
みっともなくても、見苦しくても、恥ずかしくても、人には涙が必要だ。
泣くという字は三水に立つと書くだろう?
泣いて、喚いて、疲れて、食べて、寝て、また歩き出せばいい。
人は泣き続ける程弱くはないが、歩き続けられる程強くもないんだ】
泣く事は立ち上がる為の準備、なら、泣けなかった人はどうなるのか?
『私、この子達がいなかったら壊れてた』
ゾッとする。
私が知る限り、この世界は医学のいの字もない。
魔術の一部や煉丹術にそれっぽい物があるが、あくまでそれっぽいだ。
そんな世界で精神疾患を患ったら何をされるか、考えたくもない。
疾患という名が付く通り、精神疾患は心の病気である。
適切な治療を受ければ治るし、社会参加も可能だ。
つまり、適切な治療を受けなければ治らない。
「久遠、永遠、ありがとう」
私は二匹をギュウッと抱きしめ、何度も何度も感謝した。
グ〜〜〜〜。
「お腹空いた」
上の虫が泣き止んだら、下の虫が鳴き出した。
人間も動物、三大欲求には弱い。
『ご飯どうしよう。
保存食は全滅してたし、調理器具もガビだらけ。
水は………、井戸使えるかな?』
国境が変わったのか、過疎化が進んだのか、何れにせよ、レシュネーは森に呑まれたのだろう。
民家も商店もなく、道は荒れ果て、植物が我が世の春と言わんばかりに枝葉を伸ばしている。
井戸が使えなければ飲み水すら手に入らない。
近くに天然温泉や綺麗な湖はあったが、道なき道を進むには草刈りが必要だ。
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