プロローグ

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プロローグ

「ん~~~〜う」 私は大きく背伸びをしてから両目をシパシパと(まばた)く。 体中に重りを付けられたように(だる)い。 視界もボヤけている。 『寝過ぎたかな? でも、昨日は11の鐘を聞いてからベッドに………、えっ?』 徐々にハッキリしていく視界、そこに有り得ない物が映った。 『何で蜘蛛の巣だらけ? 何でビンヴェル(蔓植物)が天井にビッシリ? あれは人里では繁殖しにくいよね? てか、背中痛い。 腰も尻も痛いってどいういう事?』 ビンヴェルは暗い所で淡く光る蔓植物だ。 鬱蒼(うっそう)とした森の深部を好み、人里では繁殖しにくい。 その特徴から、照明器具として人気があると聞いた。 目玉が飛び出る程にお高いので、2回しか見た事はないが。 「いっ…………?!?!」 悲鳴は声にならなかった。 喉が張り付いたように動かない。 まるで何年も声を出していなかったようだ。 『何なの、これ。 私、どうなって………。 久遠(くおん)永遠(とわ)!』 思わず呼んだのはあの日から支えてくれた相棒達、ケミャットの姉妹である。 ケミャットはこの世界の小型猫科動物だ。 家猫に似ているが、頭に翼があり、人語を解する。 懐けば簡単な手伝いや害獣の駆除もしてくれるし、値段もそこそこなので、幅広い層に人気がある。 私がこの世界に落ちた日、償いになるとは思いませんが、出来る限り望みを叶えましょうと、駄女神は約束した。 私は白姫(しらひめ)黒姫(くろひめ)(猫)に会わせてと願い、駄女神は二匹をケミャットとして転生させてくれた。 新しい名前を付けたのはその時だ。 久遠は時間が無限である事を意味し、永遠は何かが果てしなく続く事を意味する。 ずっと一緒にいられるように、その願いを名前に託した。 紆余曲折を経て、ヴィーント()公国の端の村・レシュネーに居着いたのが約四年前である。 レシュネーは友好国との国境に近く、移住者が多いからか、余所者に優しい。 公都(こうと)も考えたが、諸悪の根源に近付きたくなかったし、顔を合わせたら口封じを兼ねてブチ殺すだろう。 実利のみで選んだが、住み心地は悪くなかった。 電気もガスも水道もなく、服は古着を買って繕うしかないし、トイレットペーパーは青い木の葉だったが、それらはレシュネーに限った事ではない。 駄女神曰く、この世界の文明は中世に近いので、あなたにとっては不便や不満が多いでしょう。 だが、住めば都とはよく言ったもので、そこそこ楽しく、そこそこ賑やかに暮らしてきた。 仕事(花屋)も軌道に乗り、明日の予定を立てながらベッドに入ったのが昨日の夜-
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