8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
『誰もいないの?
えっ、今、朝だよね?
昼?
寝過ぎたとか?
久遠も永遠も起こしてくれなかったの?』
そこまで考えた時、ある事に気付く。
『静か過ぎる。
昼にしても朝にしても、こんだけ明るかったら皆起きてる筈』
薪を割る音、ドアや窓を開ける音、人の話し声、それらに交ざる駄獣(荷物を運ぶ動物)と騎獣(人間を運ぶ動物)の鳴き声、あの日からアラームの代わりを務めてくれた生活音が一つも聞こえない。
『何で?
こんな事、一度も………』
何か起きていると確信し、私は上半身にグッ!と力を入れた。
「ングゥゥゥゥ」
気は急くが、体はうんとこしょのどっこいせである。
この年で老人の気持ちが分かるとは夢にも思わなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
どうにか上半身を起こしたが、息は切れるし、下半身はまだ動かせない。
それでも、室内の異常を知る事は出来た。
「何、これ」
思わず呟いた言葉、声を出せたのに、喜ぶ時間もなさそうだ。
天井を覆うビンヴェルとその間を埋める蜘蛛の巣、床も家具もブ厚い埃を被っているし、壁は一部が崩れて陽が射し込んでいる。
まるで廃屋、いや、廃屋そのものだ。
猫も住みそうにない。
「どうなってんの?
異世界トリップの次はタイムスリップ?
寝てる間に百年経ったとか?
んな馬鹿な………」
嫌な予感がする。
寝室の窓は一つ、ベッドの右横にあり、ベッドからでも手が届く。
私は右手を伸ばし、ブ厚いカーテンを開けた。
これは遮光性を追求した特注品で、破れにくい。
猫対策として、ウチのカーテンは全てこのタイプだ。
「うわっ!」
網膜を焼くような光、すぐに目を閉じたが、頭の中がグワングワンと回っている。
『眩しい。
頭痛い』
目蓋を揉み、次いでゆっくりと開けた。
「なっ、何これ………」
そこにあったのは樹、樹、樹、草、草、草、小さいものから大きいもの、色も形も多種多様な草木がワサッと生い茂っている。
趣味と実益を兼ねて造った庭も、長閑な田園風景も、そこに行き交う人も、何もかもが消えていた。
「どう、して?」
魂消たのは三度目だなと思いながら、私は生まれて初めてこの心境を知った日を振り返った。
厄日どころか、神も仏も裸足で逃げ出す仏滅日をー
最初のコメントを投稿しよう!