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「……………、また減ってる」
私は冷凍庫を開けたまま首を捻った。
夏祭り(夏越の祓)が四日後に迫り、馬車馬の如く働かざるを得ない私にとって間食は貴重な原動力だ。
夏はアイスクリームとホットハーブティーの組み合わせに限る。
二の腕に振り袖が付こうと、足が横に丈夫になろうと、腹が肉の毛布を被ろうと、これだけは止められない。
止められないが、夢遊病(正確には睡眠時遊行症と言うらしい)になる程ではない………、と思う、いや、思いたい。
二~三日前からアイスクリームが消えるのだ。
私は食べていないし、泥棒が入った形跡もない。
そもそも民家からアイスクリームを盗む泥棒がいる筈がない。
『まさか………』
私は視線をスッと右横に滑らせ、我が愛猫を見る。
白姫(生後約五ヶ月)は白黒の短毛種だ。
尻尾の先が黒く、それ以外は雪のように白い。
洋猫の血が入っているのか、目はオッドアイである。
一ヶ月くらい前に保健所から引き取った。
私の一目惚れだった。
『白ちゃん……、は無理だ。
引き戸はともかく、冷凍庫は開けれない。
カップもないし』
白姫が犯人、いや、犯猫ならウチの中にアイスクリームのカップが転がっている筈だが、どこを見てもない。
「白ちゃん、何か見なかった?」
首をキョト~ンと傾げている白姫に訊くが、何も返ってこない。
当たり前だが。
『やっぱり泥棒?
いやいや、アイス泥棒なんて』
ゴンッ!!!
「んっ?」
何かが机にぶつかったような音がし、何だろう?と振り向くと―
「はっ?」
居間のテーブルの下から金色の頭が突き出ている。
成る程、これが目が点になるという心境か………。
オギャア!と泣いて約二十七年、驚愕する事も喫驚する事もそれなりにあったし、唖然とした事も呆然とした事もあるが、目が点になった事は終ぞなかった。
『何これ?
どうなってんの?』
「痛ったぁ」
「頭が喋った!」
「っ?!?!」
グルッと振り返った闖入者は絶世の美少女だった。
彼女は顔色を変え、
「えっ、嘘っ、人?!」
アワアワと慌て始めた。
「えっと、決して怪しい者ではなくてですね………」
どこからどう見ても怪しい。
言いたい事はも知りたい事も山程あるが、まずー
「私のアイス返せっ、アイス泥棒!!!」
食べ物の恨みは恐ろしいのだ。
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