プロローグ

3/8
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「……………、また減ってる」 私は冷凍庫を開けたまま首を捻った。 夏祭り(夏越(なごし)(はらえ))が四日後に迫り、馬車馬の如く働かざるを得ない私にとって間食は貴重な原動力だ。 夏はアイスクリームとホットハーブティーの組み合わせに限る。 二の腕に振り袖が付こうと、足が横に丈夫になろうと、腹が肉の毛布を被ろうと、これだけは止められない。 止められないが、夢遊病(正確には睡眠時遊行症と言うらしい)になる程ではない………、と思う、いや、思いたい。 二~三日前からアイスクリームが消えるのだ。 私は食べていないし、泥棒が入った形跡もない。 そもそも民家からアイスクリームを盗む泥棒がいる筈がない。 『まさか………』 私は視線をスッと右横に滑らせ、我が愛猫(あいびょう)を見る。 白姫(生後約五ヶ月)は白黒の短毛種だ。 尻尾の先が黒く、それ以外は雪のように白い。 洋猫の血が入っているのか、目はオッドアイ(ブルー&グリーン)である。 一ヶ月くらい前に保健所から引き取った。 私の一目惚れだった。 『(しら)ちゃん……、は無理だ。 引き戸はともかく、冷凍庫は開けれない。 カップもないし』 白姫が犯人、いや、犯猫ならウチの中にアイスクリームのカップが転がっている筈だが、どこを見てもない。 「白ちゃん、何か見なかった?」 首をキョト~ンと傾げている白姫に訊くが、何も返ってこない。 当たり前だが。 『やっぱり泥棒? いやいや、アイス泥棒なんて』 ゴンッ!!! 「んっ?」 何かが机にぶつかったような音がし、何だろう?と振り向くと― 「はっ?」 居間のテーブルの下から金色の頭が突き出ている。 成る程、これが目が点になるという心境か………。 オギャア!と泣いて約二十七年、驚愕(きょうがく)する事も喫驚(きっきょう)する事もそれなりにあったし、唖然(あぜん)とした事も呆然(ぼうぜん)とした事もあるが、目が点になった事は(つい)ぞなかった。 『何これ? どうなってんの?』 「痛ったぁ」 「頭が喋った!」 「っ?!?!」 グルッと振り返った闖入者(ちんにゅうしゃ)は絶世の美少女だった。 彼女は顔色を変え、 「えっ、嘘っ、人?!」 アワアワと慌て始めた。 「えっと、決して怪しい者ではなくてですね………」 どこからどう見ても怪しい。 言いたい事はも知りたい事も山程あるが、まずー 「私のアイス返せっ、アイス泥棒!!!」 食べ物の恨みは恐ろしいのだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!