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「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ、美味しそうだなってつい………。
出来心だったんですぅ!」
土下座で謝る絶世の美少女と仁王立ちでそれを見下ろす私、加害者が被害者に見えるとはこれ如何に。
「てか、アンタ誰?
ウチの氏子でもこの辺りの人でもないよね?
こんなとこまで泥棒に来たの?」
自慢じゃないが、ウチに盗める物はない。
総代会議の度に建て替えの話が出る程にボロい、筋金入りのボロ神社だ。
古い物には価値があると言うが、古いだけの物には価値はない。
「ちっ、違いますっ!」
彼女は音がしそうな勢いで顔を上げ、
「私はニーラカアナイの管理神の一柱で、イラと申します。
今日は日本の宗教施設の見学に」
「はっ?」
私は首を傾げながら目を瞠った。
意味が分からない。
ミイラ?
カアナイ?
管理?
「ですからっ、今日は日本の宗教施設の見学に来たんです!」
「そこじゃなくて、管理シンだのミイラだのから説明してくれる?」
私が思わず待ったをかけると、管理シン(自称)はハッとし-
「そうですね。
こちらの人は絆が薄いから分かりませんね」
その後、彼女は私の頭をパンクさせようとしているとしか思えない勢いで複雑怪奇な話を捲し立てた。
曰く、世界は無数にあり、それぞれに信仰神と管理神がいる。
曰く、信仰神は人の信仰から生まれた神であり、人を愛し、護り、育て、導く。
曰く、管理神は世界から生まれた神であり、世界を愛し、護り、育て、導く。
曰く、管理神は界渡り(異世界トリップ)が出来るので、たまに仲が良い管理神の世界から気に入った人を渡り人(異世界トリップした人)として呼び込む。
曰く、生物は世界の一部として管理神と繋がっているが、世界の成長に従って絆が薄れ、最後は蜘蛛の糸より細くなってしまう(巣立ち)。
「ニーラカアナイは私の母、そこに住む生命は弟妹に等しいと思い、深く愛し、導いてきましたが、 それがいけなかったのでしょう。
私が神託を与えた者や私の声を聴いたと言う者が勝手に宗教を創り、教義の違いが生んだ戦火が世界を呑み込みました。
文明が未発達だった星は疫病に侵され、発達していた星は非人道的な殺戮兵器が飛び交う地獄と化し、どちらも滅亡の足音が近付いていました」
「宗教戦争で滅亡って、本末転倒でしょ」
思わず突っ込んでしまった。
宗教は人が創った究極の催眠術だと、私は思っている。
良く言えば人が人を救う方法の一つだが、悪く言えば人が人を救う道具の一つに過ぎない。
そんな物に振り回されるなんて滑稽だ。
ミイラ取りがミイラになっている。
管理シン(自称)改め女神・イラはガックリと項垂れた。
「分かっています。
お前が甘やかすからだと叱られて、少し前に左遷されました」
神の世界に左遷があるとはビックリだが、それよりも-
「何やったんですか?
左遷されるってよっぽどのヘマですよね?」
恐る恐る訊く私は傍から見れば好奇心に駆られて罠に近付く猫だろう。
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