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「どうなってんだ?」
「さぁ?」
「なぁ、」
「僕に聞かないで下さいっ!」
「聖母様が二人、そんな馬鹿なっ!
こんな事は今まで一度も………」
『へぇ、拉致っといてどっちかはお呼びでなかったと?
ふざけんなよ?
マジふざけんなっ!
五寸釘ブチ込むぞっ!』
耳を澄ましながら心の中で元凶共を罵る。
狸寝入りは私の十八番だ。
こんな使い方をするとは夢にも思わなかったが、芸は身を助くらしい。
あちこちで議論が飛び交い始めた時、低い声が凛と響いた。
「静まりなさい。
議論は陛下にご報告してからです」
『はいっ、国家ぐるみの陰謀決定ーーー』
血の気が引いた気がする。
楽しみにしていたアイスクリームを盗まれ、パラシュートなしのスカイダイビングをさせられ、冷や汗を掻き、血の気が引き、今日は碌な事がない。
厄日じゃなかろうか。
それとも仏滅だろうか?
「アリックとカールは陛下に報告しなさい。
他の者は聖母様方を………。
分かっていると思いますが、呉々も丁重に。
レゴラス帝国の過ちを繰り返してはなりません」
「「「「「畏まりました」」」」」
低い声が重なり、次いで室内が俄に騒がしくなった。
ドタッ!だのドタバタッ!!だの、騒音が耳に障る。
『ヤバイ、このままじゃ俎板の鯉だ。
女神様、女神様、聞いてらっしゃいます?
もうクソ女神って呼ばないからどうにかしてっ!!!』
私は心の中でクソ女神改め駄女神に哀願した。
八面鳥と言うなかれ。
私のモットーは一に保身、二に保身、三、四がなくて五に保身である。
長いものには巻かれる主義だ。
【大丈夫ですか?】
頭の中に声が響くってキモイと思いながら小さく頷く私。
【もう少し待って下さい。
今助けますから】
『出来るだけ早くお願いします。
この体勢キツイんで』
狸寝入りも極めれば修行だと思う。
「猊下、陛下が聖母様に会わせよと」
「なりません。
聖母様が選定の儀以前に俗世と触れ合う事は禁じられています」
「そう申し上げましたが、一顧だになさいません」
「なりませんと言ったらなりません。
陛下は私が説得致しますから、お前達は睡蓮の間の準備を」
「畏まりました。
二部屋でございますか?」
「当然です。
聖母様に私室がないとは無礼にも程があります」
「「では、そのように。
失礼致します」」
『きな臭さMAXーーー。
女神様っ、女神様っ、神様仏様女神様ぁぁ、早く助けて下さいっ!!』
私が恥も外聞もなく泣き叫んだ(心の中で)からか、すぐに救助が来た。
「なっ!」
「「「「これはっ!」」」」
素っ頓狂な声と浮遊感、私は生まれて三度目の失神を体験し、もう嫌、このパターン!と心底思った。
目を開けると、抜けるような青空が私の視界を埋めた。
少し冷たい風が心地良い。
歌うような虫の声と幽かな葉音が鼓膜に触れ、ツンッとした緑の匂いが鼻腔を擽り、柔らかい草が体を包んでいる。
『私……、どうなったの?』
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