8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
プロローグ
「ん~~~〜う」
私は大きく背伸びをしてから両目をシパシパと瞬く。
体中に重りを付けられたように怠い。
視界もボヤけている。
『寝過ぎたかな?
でも、昨日は11の鐘を聞いてからベッドに………、えっ?』
徐々にハッキリしていく視界、そこに有り得ない物が映った。
『何で蜘蛛の巣だらけ?
何でビンヴェルが天井にビッシリ?
あれは人里では繁殖しにくいよね?
てか、背中痛い。
腰も尻も痛いってどいういう事?』
ビンヴェルは暗い所で淡く光る蔓植物だ。
鬱蒼とした森の深部を好み、人里では繁殖しにくい。
その特徴から、照明器具として人気があると聞いた。
目玉が飛び出る程にお高いので、2回しか見た事はないが。
「いっ…………?!?!」
悲鳴は声にならなかった。
喉が張り付いたように動かない。
まるで何年も声を出していなかったようだ。
『何なの、これ。
私、どうなって………。
久遠!
永遠!』
思わず呼んだのはあの日から支えてくれた相棒達、ケミャットの姉妹である。
ケミャットはこの世界の小型猫科動物だ。
家猫に似ているが、頭に翼があり、人語を解する。
懐けば簡単な手伝いや害獣の駆除もしてくれるし、値段もそこそこなので、幅広い層に人気がある。
私がこの世界に落ちた日、償いになるとは思いませんが、出来る限り望みを叶えましょうと、駄女神は約束した。
私は白姫と黒姫(猫)に会わせてと願い、駄女神は二匹をケミャットとして転生させてくれた。
新しい名前を付けたのはその時だ。
久遠は時間が無限である事を意味し、永遠は何かが果てしなく続く事を意味する。
ずっと一緒にいられるように、その願いを名前に託した。
紆余曲折を経て、ヴィーント公国の端の村・レシュネーに居着いたのが約四年前である。
レシュネーは友好国との国境に近く、移住者が多いからか、余所者に優しい。
公都も考えたが、諸悪の根源に近付きたくなかったし、顔を合わせたら口封じを兼ねてブチ殺すだろう。
実利のみで選んだが、住み心地は悪くなかった。
電気もガスも水道もなく、服は古着を買って繕うしかないし、トイレットペーパーは青い木の葉だったが、それらはレシュネーに限った事ではない。
駄女神曰く、この世界の文明は中世に近いので、あなたにとっては不便や不満が多いでしょう。
だが、住めば都とはよく言ったもので、そこそこ楽しく、そこそこ賑やかに暮らしてきた。
仕事(花屋)も軌道に乗り、明日の予定を立てながらベッドに入ったのが昨日の夜-
最初のコメントを投稿しよう!