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それからというもの、日常までがぐにゃぐにゃしはじめた。なにに頼れば自分を保てるのか、わからなくなってしまった。目指しつづけてきたものは、そう簡単には手放せない。憂鬱な日々が続いている。わたしはどんどん沈み込んでいった。
癖で、目は相変わらず正兄を追ってしまう。正兄との日々は変わらないのに、わたしのがっかりとした気持ちは立ち直れない。いつもと違う目で正兄を見つめるわたしを、美樹はひどく心配してくれるけれどもと、なにがあったのかは聞かないから、少しだけ楽にいることはできる。
みんなの輪の中にいる時のわたしは作った明るさで相変わらずみんなとはしゃぐ。けれどもそれは、とても疲労を齎す。
ある時、正兄を見ていたら、美樹がこれまでは違う目でわたしを見ていることに気づいた。とても優しげな目を寄越している。それからというもの、美樹はいつもそんな目をわたしに寄越すようになった。
頭の中は整理が付かず、相変わらずごにゃごにゃだ。そうして気も沈んでいる。どうして美樹はいきなりそんな目でわたしを見るようになったのか、不思議で疑問で、けれども考える余地をわたしは持てない。もやもやして、なんだか落ち着かない。
「正隆さんとなにかあった? それともあいつ?」
美樹は絶対に時也の名前を呼ばない。ここまで毛嫌いする理由はなんだろう。とにかく、美樹はわたしと時也が付き合うことが不服のようだ。付き合いはじめた頃からずっと。だから、その辺はもう当たり前になっていて、気にしても仕方ないのだと思っている。疑問ではあるけれど。
「どちらでもないよ」
わたしがそう答えると、美樹は揶揄うように言った。
「お菓子食べ過ぎて、太っちゃった?」
思わずわたしは渋い顔をしたら、美樹は安心したように笑った。それから言った。
「うん、まだ大丈夫ね」
美樹は仰々しい励まし方をすることはない。この言葉も、とても自然なもので、わたしは嬉しくなった。けれども、わたしの中にあるごにゃごにゃは落ち着かない。
「美樹、大好きだよ」
そんな言葉が口から飛び出したら、「わたしも」と美樹は柔らかく言った。
「理由、言えなくてごめんなさい。でも、言いたくないことなの、誰にも」
「そういう悩みもみんな抱えながら過ごしてると思う」
「親友に隠しごとされるの、嫌じゃない?」
「そんなことないよ。双葉だから、むしろ双葉らしくていいと思う」
そんなことを美樹は言った。話したとして、美樹までがっかりしたら遣る瀬無い。だから言えない。
「ただ、ひとつだけ。正隆さんも心配しているわ」
あの時、わたしは、それでも正兄はわたしの憧れの王子様だよと言えなかった。きっと普段のわたしなら言っていた。正兄が気にするのは当然かもしれない。今まで通りに正兄と過ごしているから、全然気付かなかった。
わたしは自己嫌悪を覚えて、さらに落ち込みはじめた。一ヵ月経っても変わらない。更に更にわたしの気落ち具合は悪化していった。
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