《 第三章 》綺麗ごと、隠しごと、本当のこと

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《 第三章 》綺麗ごと、隠しごと、本当のこと

 「親友に隠しごとをされるの、嫌じゃない?」と尋ねた時に、「そんなことないよ」と言った美樹もきっとわたしに隠しごとをしている。それは好きな人のことだと思う。いつだか理想の恋愛について、こんなの素敵あんなの素敵と話していた時、美樹は自分から話を振ったのに、ほんの少し悲しそうな顔をしたのを覚えている。きっと美樹は気付かれていたとは知らないだろうし、無意識だったのかもしれない。手の届かない相手なのかもしれない。辛い恋なのかもしれない。そんな風に考えてしまった。だから、わたしは美樹の好きな人に関して尋ねられない。  そんな美樹は最近ご機嫌だ。時也の話をしても、あまり嫌がらない。面白そうに聴いている時もある。  辛い恋が、実ったのかもしれないと、全て憶測でしかないのにわたしは思っている。美樹のような素敵な女の子の恋人になるような人ってどんな人だろう。詮索をするつもりは全くないけれども、想像はしたくなる。前に、理想のタイプに紳士的な人と挙げていたことがあったなと思い出す。淑やかな美樹らしいと思う。ガキくさいと時也をひどく嫌うくらいだ。  時也は美樹に嫌われていることを知っているらしい。そうして、時也も美樹のことがあまり好きじゃないらしい。時也曰く、水と油だそうだ。一方的に嫌われてる感は否めないけどなんて、時也は大きく笑った。相変わらずあっけらかんとすている時也に、いつもわたしはほっとする。  美樹にわたしは尋ねてみた、「どうしてそんなに時也が嫌いなの?」と。そうしたら美樹は、こう言った。 「平凡でいつもへらへらして能天気で悩みなさそうで鼻に付くのよ」  わたしはどうにか表情が凍るのを回避した。無性に美樹が冷たく感じたし、わたしの彼氏を美樹がそこまで蔑んでいたとは思わなかった。確かに、付き合い始めた頃、「さっさと別れたほうがいいよ」と何度か言われた覚えはある。言われたというより、言い聞かされたに近いから、その時はなにか理由があるのだろうと思った。けれども何度聞いても美樹は教えてくれなくて「別れた方がいい」の一点張りだから、わたしが正兄以外を好きなることを認められないというそれが理由だということに決めつけた。憧れの正兄を好きになることなんてあるわけないのに。だってわたしは正兄のようになりたくて、恋愛で言うならば、正兄みたいに素敵な恋愛がしたい。話に聞く正兄の恋愛話はどんな人と付き合っている時もとても素敵に感じる。互いを認め合い受け入れ合い、理想的な恋愛のように感じる。そんな正兄の恋愛が壊れる度に不思議だ。どうして別れてしまうのだろう。
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