《 第一章 》王子様に憧れるということ

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 美樹とは中学二年生の時に出会った。時也と出会ったのは中学一年生。どちらも同じクラスになったことがきっかけだ。  時也の苗字は神部(かんべ)、わたしの苗字は唐沢(からさわ)、出席番号が一緒で、隣同士の席で直ぐに仲好くなった。二年生ではクラスが分かれてしまい、美樹と同じクラスになった。美樹の苗字は小野川(おのがわ)という。出席番号がわたしの一つ前、一学期の間に席替えはなく、美樹はわたしの前の席だった。  美樹は自分の前の席の子にも隣の席の子にも話しかけないのに、わたしにだけは話しかけてくれた。最初は不思議だったけれど、性格とは裏腹に優しい口調で話す美樹に惹かれた。そうしてどんどんわたしたちは仲良くなっていき、家に遊びに行ったり来たりするような仲になり、夏休み明けには親友と呼べる存在となっていた。  その頃、既にわたしは時也のことが好きだった。大好きだったと言っていい。わたしの正兄に対する誤解があるから、わたしと美樹は本当の恋話ができない。美樹に好きな人がいることは聞いていた。美樹が好きになる人だからとても素敵な人だろうと思い浮かべた。べたべたしたような関係性ではないわたしたちの交友関係は全く違う。そもそも美樹はとても狭い。狭いのに、わたしはあまり知らなくて、だから美樹の好きな人が誰か知らない。  ある時、時也が淋しそうなことを言った。一緒に帰ろうと誘われた帰り道でのことだ。ふたりでのんびりとくだらないやり取りをしながら歩いて、コンビニに行った。その日発売のパリンコバーの期間限定イチゴチョコ味を求めて。パリンコバーはバニラアイスの間にぐるぐるとパリパリのチョコートが挟まっていて、食べるたびにパリパリと音がする。わたしと時也はその食べ心地が大好きだ。  冬の初め、寒い寒いと言いながら縁石に腰を掛けてパリンコバーを味わっていた時のことだった。 「小野川ってさ、とっつきにくくて話したことないけど」 「うん」 「双葉が親友やってるくらいだから、きっとすごくいい人なんだろうなあ」 「うん、美樹ってとても素敵」 「大好きなんだねえ」 「大好き!」  と返すと、時也が「嫉妬しちゃいそー」とけらけら笑った。そうしてその拍子に、時也はまだ食べかけの棒アイスのアイスの部分をぼとりとアスファルトに落っことしてしまった。時也は悔しそうな顔ではなくて、淋しそうな顔で少しの間、食べてもらえなくて悔しそうなアイスを見つめていた。  きっと友情のそれだとわたしは思ったし、冗談だろうとも思った。わたしは時也が大好きだけれど、時也はどういう好きでわたしと一緒に居てくれるのかをまだ知らない頃だ。  こうして放課後にのんびりとふたりで過ごすことは多かった。そう考えると、付き合うまでの時也も親友のようなものだ。しかしわたしと時也との関係にはわたしの片想いが挟まっていたから、きっとその時のわたしたちは親友とは少し違う。
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