《 第二章 》ごにゃごにゃしたもの

1/6
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

《 第二章 》ごにゃごにゃしたもの

 正兄は社会科の先生だ。担当は歴史、わたしはこの科目がとにかく苦手だ。うちのクラスの担当が正兄でなくてよかったと思うくらい。  毎日、正兄はわたしの復習に付き合ってくれる。歴史の授業があった日はそれに徹底してくれる。正兄も、わたしが歴史を得意としないことを知っている。だから、苦手でも少しは気が楽だ。最後に豆テストを正兄は作ってくれるのだけれど、そこでは全問正解ができてしまう。それなのにテストとなると全くだめだ。正兄はわたしの報告に、「大丈夫、そのうち実になるからさ」と励ましてくれる。だからどうにか頑張れる。  二学期の中間テストが終わり、答案用紙の返却の時がきた。  名前を呼ばれ、緊張気味に取りに行くと、先生が苦い顔をしていた。「まあ、そんなこともある。気にするなよ」と言いながら受け取った答案用紙を手に、わたしの手はがくがく震えてしまった。きっと顔色も悪くなっていただろう。  ついに、平均点以下を取ってしまった。いくら不得意とはいえ、今までは平均点をゆうに超えていたのに。  上の下という成績を維持しているわたしがいつも思うのが、もしかしたら歴史が得意になればもう少し上になれるかもしれないということだった。平均点以下、既に返ってきているものはいつも通り、順位が落ちるのは目に見えている。  席に戻ると、泣きたいほどを通り越して、わたしは消沈した。努力が実を結ぶこともないのかもしれないと実感した。  どうしたらいいだろうか。頭に浮かぶのは正兄。この答案用紙を見せるのは怖い。怖いけれども、一番の相談相手に相談するのが適当なのはわかっている。正兄はどんな顔をするだろうか。がっかりするだろうか。けれども、そんなことを気にしている場合でもない。母はがっかりするかもしれない。教育熱心でもなければ過度な期待を押し付けることもないけれど、いつもわたしの頑張りに喜んでくれる。  休み時間、わたしの席にやってきた美樹が心配そうにわたしの頭を撫でた。俯いたままで、わたしは「平均点以下だった、歴史」とまるで暗い声でいった。  悲しくて美樹の顔を見上げられないけれど、きっと驚いたり呆れたり、そんな顔をしていると思う。 「わたしは双葉の努力を知っているよ」  美樹ははそう言ったけれど、わたしは泣きそうな声で「でもだめだった」としか言えなかった。 「努力してもだめだったら、もっと努力。双葉の常套句」  そんな風に言ってくれても、わたしは気分を変えられない。最悪、なんて最悪。 「そんな時もあるのよ。寧ろ、無い方がおかしいのだと思う」  優しいけれども少し寂しそうな口調で美樹はそう言ったけれども、成績が常に上位の美樹はぶれることなく成績を維持している。美樹が羨ましい。なんでもすんなりと熟す美樹みたいになれればいいのにといつも思う。  最後に返却された数学の点数は平均点ぴったりだった。歴史は好きなのに苦手、数学は好きだし得意。それなのに取った点はたったの平均点。こんなことも初めてで、わたしは更に沈み込んでしまった。成績は確実にがたりと下がる。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!